黒猫 | ナノ


▼ 戦慄の友人

講義を話半分に聞いて、学食で持参したカップラーメンにお湯を入れる。学食のマズイくせに500円もする定食を食べるより、ディスカウントストアで88円で買い溜めした何処のメーカーだかわからないカップラーメンを食べる方が遥かにお得だ。
「かおるー!おまたせ!」
入学時から一緒にいる友達が、目の前の机に日替わり定食を置く。こんもり積まれたキャベツの千切りと、なにかの揚げ物が3つ。
「またカップラーメン?栄養偏るよ」
「だって安いし」
「また痩せたんじゃない?弁当でもいいから作ってくればいいのに」
キャベツにドレッシングを浸す勢いで注いでいる。以前それを突っ込んだ時「これノンオイルだから」とか見当違いなことを言っていたのを思い出す。
「そっちこそ、よく毎日500円の日替わりなんて食べられるよね、お金持ちかよ」
「あはは、一応実家暮らしだし…そっか、かおるは一人暮らしだもんねぇ」
今は同居人がいるのだけれど。
「そうよね、家に帰ったらご飯があるってわけじゃないもんね……ねぇ、こんどかおるの家行ってもいい?」
ギクっとする。今家に来られたら、同居人の存在がバレる。
「え、で、でも私の家汚いし、面白いこともないよ?」
「いいじゃん、確かかおる明日バイト休みの日よね。夕飯だけでも作りにいくよ!」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ、明日って…」
「早い方がいいでしょ、私の料理でかおるにちゃんと栄養とらせてあげるわ」
「それとも何?」
「見られて嫌なものでもあるの?」
再びギクっとする。そうだよね、こんなに否定してたら怪しまれる…よね。

ピコリン、とラインの音がした。
『明日の夕方行くからねー!』
思わず溜息が漏れる。どうしよう。どうしよう。エンヴィー…どうしよう…。
「どうしたの?」
焼きそばを頬張るエンヴィー。何も知らないエンヴィーが憎いよ。嘘だよ。可愛いよ。
ピンとたった黒い耳も、長くて愛らしい尻尾も、バレたらえらいことになっちゃうんだよ。
「エンヴィー、ごめん、明日友達が家に来ることになっちゃって…」

……………

時刻は午後5時20分。友達が来るまで40分。
「かおる……」
「ごめんね、2時間くらいでうまく丸めて帰ってもらうから…」
「わかった…」
「帰ったらすぐに迎えに行くから」
作戦はこうだ。友人が来る前に家の前の公園にフードを被せたエンヴィーを待機させる。友達が帰ったら即座に迎えに行く。
これだけのことだが、エンヴィーを一人で、しかも人通りの多い夕方に外に出すことが心配だ。
「知らない人に着いていっちゃダメだよ、それと……」
ピンポーン、と、インターフォンが鳴る。私と猫は同時にビクッとして、無言になる。
続いて、ピンポーン、ピンポーンと連続で鳴ったかと思うと、ピピピピピピピピとものすごい早さで音が鳴った。完全にホラーだ。
ピコリン、とラインの音。『着いたよーあけろー』

……………いる!!!!

「と、とりあえずエンヴィー、お風呂場に行って!!隠れてて!!」
「えっ!えっ?」
エンヴィーをお風呂場に閉じ込めると、玄関に向かう。何かちょっと胃が痛い。ゆっくりとドアをあけると、買い物袋を両手に下げた友人が立っていた。
「早く着いちゃった!さ、作ろ作ろー!」
図々しく靴を脱ぎ散らかして部屋にあがると、まず私の部屋を見渡した。
「全然汚くないじゃん!むしろ綺麗だよ」
どさっと買い物袋を置くと、袋から合挽き肉やら卵やらパン粉やらを取り出した。
「今日はハンバーグだよー!」
「え、ハンバーグ!?」
ハンバーグという魅惑の響きに一瞬心を動かされたが、直ぐに現実に引き戻される。キッチンのすぐ隣、風呂場にはエンヴィーがいる。もしもバレたら、只事じゃ済まされない。
私は米をとぎながら、密かに冷や汗を流した。

prev / next

[ ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -