腰:束縛:セルカとリオ


 貴女と出会うまでの世界は、心の裏を知らない世界だった。
 今となってはそう思うのですと告げたら、貴女はどんな顔をしてどんな答えをくださるでしょうか。人並みに色々なときを経て育ってきたつもりだった。良いときもあれば困難なときもあって、知り得た感情の種類は決して少なくなかったと思いたい。私は、私自身に関しては、それなりに多くのことを分かっていると思っていた。喜びも悲しみも十分に知っていたので、些末な一人という個人ではあるが、歳相応には心の成熟を果たしてきただろうと。そう思っていたけれど。
「貴女が、いつどんなときにも、私だけのものであればいいのに」
 大きな間違いだったのだと、最近、思わずにはいられない。
 私の心には私の知らない、球体の裏側が存在していた。そこには決して表に出られない、嫉妬や屈折、様々なものが混在している。球体の表を晴れとするならば、ここは雨どころか、降り注いだあとの泥水のようだ。ひどく息苦しく、見るに値しない。けれど私はその感情を、無視できない。
「いつ、どんなときもって」
「……戯言です、お気になさらず」
 顔を上げたリオさんに微笑み、回る球体をそろりと隠す。私の知らない貴女の時間がたくさんある、それが空しい。私の知らないところで貴女の声を聞き、顔を見て、共に過ごす人がたくさんいる。それが苦しい。
 なんて、口にすべきことではないなと分かっているので、言いはしないが。気を抜けばこぼれてしまいそうな本心を隠すために、唇を押し当てた腰は真っ白で、泥を塗るにはまだ畏れが勝った。
 私はきっと、おかしいのでしょう。平凡と謂う五線譜から、もしかしたら線を一本、踏み外しているのかもしれない。
 いつか、それでも貴女が好きだと、すべてを言えるときがきたのなら。拠り所のないこの雨も、密かに上がる。そんな気がしている。



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