指先:称賛:ジュリとヒカリ


「ジュリさん、本当に私でよかったんですか」
 地平線みたい、と、銀色に輝きながら指に納められていった指輪を見て、私はまったく別のことを訊いた。顔を上げた石榴色の目が、瞬きをしている。ひどく今更なことを訊いたのは、私もよく分かっているのだけれど。
「いいのヨ、アタシが頼んだんじゃない。今回のは絶対、貴女が似合うと思ったのよネ」
「でも私、昨日も真新しい傷創っちゃって」
「小さなモンでしょ? それくらい平気ヨ。お化粧ができるのは、何も顔だけじゃないんだから」
 だから、アタシに任せなさい、と。
 笑っているジュリさんは、どうやらモデルを変える気はないらしい。その気になればすぐ隣の部屋にミオリさんという美人もいるし、声をかければやってくれる女の子は何人かいるだろうに。
 それでもあんたが一番似合うの! と最高に楽しげな顔で言い切られてしまっては、後込みしている自分のほうが往生際が悪いような気持ちになって、結局私はされるがままにお化粧を施されていく自分の手を見ていた。
 粉がはたかれ、傷がほとんど隠れる。うっすらと覗く赤い線を影で覆うように、ジュリさんは花やチェーンを器用に組み合わせて、私の手をまるで彫刻でも創っているみたいに飾っていった。
「うん、いいわネ」
 最後に少し指輪の角度を変え、親指にレースを飾って。生涯でこんなに手を着飾ることがあるとは思わなかったなあ、と見つめる私の腕を引き寄せ、指先にとんと唇を落とした。
「似合ってるワ、笑って?」
 片腕に、カメラを抱えて。満足げに笑んだ瞳の紅に、魅入られそうになる。
 王子様みたいな仕草が、よく似合う人だ。そう思って初めて、この人は決して女の子ではなかったのだと、目が開いた。



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