風の透明
すべての循環する生命は風に似ている。大地を、海を、そして別の生命の間を。如何にしても立ち止まることなく、進むその様は掴むことのできない風だ。そんな何百年と前から解っていたはずのことを、溢れるほどに知らしめたのはたった一人の少女で。
「どうしたんですか、神様」
「いや」
頬に、何かついていますか。滅多にこちらから触れることのない我が手を伸ばしたことに、違和感があったのだろう。すい、と傾げられた首に、図らずも頬を摺り寄せる動物のような仕草を感じて、ふっと目を伏せる。
「今日も、お前が在るなと思っただけだ」
その、輪郭が。体温が、我の意思に関係なく勝手に動く体が。いつからそこにあって、いつまであるだろうということを、時々忘れていてひやりとする。瞬き一つの時間をとっても、流れるものが違っている。我にとってはただの空気でも、彼女にとっては時間。呼吸をしている間にも、流れていく。嗚呼。
「おかしな神様。私はいつも通りですよ」
(だから、そんな顔をしなくても。貴方が思うほど、急にいなくなったりしません)
「そうだな。いつも通り、こんなところまで散歩に来るとは、妙な人間だと思っただけだ」
(想わないでくれ。切な想いは祈りに等しく、聞こえてしまう。声に出されなくとも)
まさしく、風の如く。存在と非存在の間に、彼女はいる。万物は巡る。我を取り巻いて。ただ一つ、この体を除いて、この心も。
(神様とヒカリ)
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