揺らぎの旋律


「……何がしたいのだ、君は」
 カラカラ、と。椅子を動かす音が近づいてきたなと思って、それが止まったことに気づいたときには、背中に寄り添う温もりがあった。正確には、斜め後ろの辺りに、だが。背凭れのある椅子に真っ直ぐ腰かけた僕の左肩へ、同じ椅子に横を向いて腰かけた彼女が背中を押しつけている。ちらと見れば、肩越しにシナモン色の頭が見えた。ふらふらと、鼻歌でも歌うように小刻みに揺れている。先ほどの質問に、答えてくれる気配はない。
「書類の整理の途中なんだ。あまり揺らすんじゃないぞ」
「分かってるよ。だから左側にしたの」
「そもそも何をしたいのか、僕にはまるで分からないのだが」
「ううん、何だろうね。重い?」
「……いや」
 ゆる、り。先ほどより少し体重をかけられたようだ。だが、負担を感じるほどではない。いつになく声を上げることもぱたぱたと動くこともない彼女は、こうしているだけなら軽すぎるほどで。書類の文字に目を通しながらでは、上手く引き離す口実も見つけられない。
「ギル、あったかい」
「……君の行動を、理解しようと思うことが無謀だったな」
「へへ」
「何が可笑しいのだ、まったく」
「別に、何でも?」
 結局、徐々に凭れてくる体をどうすることもできずに。僕はやけに楽しそうな声を背中から聞きながら、再びペンを取った。滲む体温が波紋になって、ひどく静かにこの身を駆け巡る。ああ、波立つ。このざわめきに目を瞑れるのは、あとどれくらいか。


(ギルとアカリ)



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