菫は蒼い


 幸福の色は何色か。そんなテーマでアクセサリーを作る大会があったという話を噂に聞いて、過ぎたコンテストに出すわけでもなく、ただ漠然と考えてみた。温かみを思わせるもの、祝福を漂わせるもの。審査の基準も何であったのだろうとさえ思えるほど大きなテーマだが、それだけに想像は尽きない。数に制限がなければ、何点でも出せるだろう。けれど。
「あの、ジュリちゃん」
「どうしたの?」
「ご飯の時間だけど、どうする?……お仕事?」
 ドアの隙間からおずおずと部屋を覗いて訊ねた彼女に、顔を上げる。壁にかかった時計を見て、そういえばそんな時間だったかとペンを置き、机の前から立った。
「行くワ、ちょうどそろそろ休憩にしたかったのヨ。今日は何?」
「きゃっ」
「あら、イイ香りじゃない」
 エプロンを解こうと背を向けた彼女に腕を回し、キッチンを覗き込む。しどろもどろになりながらも献立を答える、細いが穏やかな声は昔から変わらない。変わらないまま、今は私だけに向いている。叶うわけがないかと何度、白昼に散りばめたか分からない夢が、今は。
「……やっぱりサファイヤかしらネ。もう少し大人しい石でもいいんだけど」
「ジュリちゃん? なあに?」
「独り言ヨ。聞きたいなら、食事にしながら教えてあげる」
「うん。すぐ、用意するね」
 いつでも隣にある、小さくて、少し弱々しくて目が離せないもの。けれど本当はただ私が、隣に居続ける理由が欲しいだけの、離しがたいもの。食事の支度を再開した後ろ姿が、心なしかいつもより楽しそうに見えて、ああやっぱり間違いないと確信する。
 ――私の幸福は、貴女の色。
 貴女にとって私も、そうであれたらいい。


(ジュリとコトミ)



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