言祝いで春


 お兄さん、大変です。恋をしました、あなたの妹に。
 そう打ち明けたら、友人で同業、お隣の養鶏場を切り盛りする青年は、盛大に噎せ込んでしばらく口を利けない状態に陥った。悪かったとは思っている。だが、これでもよく考えて行動した結果だ。黙っているより、先に白状してしまったほうが良いと思った。こそこそしようにも、俺と彼、そして彼の妹の家は隣り合わせなのだ。隠れて思いを募らせる隙間もない。
 彼女の母はといえば、あの子も隅に置けないわと間接的にゴーサインを出してくれた。兄は色々と言いたいこともあったようだが、俺とは元々友人でもある。泣かせるなよ、とは言われた。誰に頼まれなくとも、初めからそのつもりだ。
「ピート、ピートっ」
「わ、ポプリ!?」
 呼び声に振り向いた瞬間、彼女はまさに柵を越えて、養鶏場の敷地からこちらへ飛び降りようとするところだった。高さはないが、長いスカートの裾が危なっかしく揺らめいていて、農具を投げ出して咄嗟に駆け寄る。細い腕と、柔らかな髪が首元に抱きつく感触があって、そのまま視界が桃色の翻る空に切り替わっていく。気がつけば、青々と育った牧草地に二人、倒れこむようにして折り重なっていた。
「おはよう、ピート! やっぱり、走ってきてくれた」
 危ないだろ、だとか、痛いじゃないか、とか。言うべきことはたくさんあって、真っ先に言うことはそれじゃない。それは分かっている、充分に分かっているのだけれど。
「……な」
「なあに?」
「俺はやっぱり、ポプリのことが大好きだなって、思ったの!」
 初めて出会ったときから、今このときまでずっと。一度も言えたことがない。舞い上がる、春のような女の子。君があまりに嬉しそうに俺を見るから、その目に捉えられるともう、ずるいよ、なんて言葉さえ出せなくなるのだ。


(ピートとポプリ)



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