クリスマス3
※兵助寄り「或る少女の〜」ヒロインで時間軸は連載より先
「クリスマス、かあ……。」
今日は12月25日、世間はクリスマスだ。ただし、平成の時代の話だが。去年は同じ趣味を持つ仲間とクリスマス会なるものを開催していた。ケーキを食べたりそれらしい音楽を聞いたり、クリスマスという雰囲気を存分に味わうのがすっかり身に染みていて、ここではそんな事が無いのだと思うと、何だか妙な気分だ。
「ケーキくらいは食べたい、かな。」
虚空を見つめて思案を巡らせたら、早速行動に移す。一日は短い。
「わあー!おいしそうなにおい〜」
甘い匂いに誘われてやってきたのは、しんべヱ、乱太郎、きり丸の三人だった。
「ケーキを作ってるの。そっちにあるのはもう出来てるから、今切り分けるね。」
「やったぁ〜!」
「あ、俺がやります。」
「じゃあ私がお皿だすよ。」
三人の好意に甘えて切り分けてもらい、いつの間にか集まっていた他の人達にもケーキを配る。最後のケーキも作り終えたところで、この場にいない人達に気付く。
「あれ、もしかして火薬委員会ってお仕事中?」
「あ、はい。さっき伊助が焔硝倉の整理があるって言ってましたよ。」
「そういえばまだ戻ってきてないな。」
「そっか。寒いのに偉いねぇ…あ、三人とももういいよ。最後まで手伝ってくれてありがとうね。」
気持ち分だけど、と大きめに切ったケーキを渡せば途端に輝く笑顔。それに満足して残りのケーキと食器類を盆に載せ、食堂を抜け出した。
「ううううう寒いぃ〜甘酒とか無いの?」
「そんなものあるわけないでしょう。それより手を動かして下さいよタカ丸さん。」
「兵助君は寒くないの…ん?誰かこっちにくるよ。」
タカ丸の声に振り向けば、見知った少女の姿が映る。
「みんなお疲れ様。差し入れ持ってきたんだけど、今大丈夫かな?」
「ああ、じゃあ一旦休憩にするか。」
全員作業の手を止め、出来たてのケーキを熱いお茶で流し込む。甘さが疲れた身体に心地好い。
「名前、ついてる。」
「えっ、どこ?」
「そこじゃなくて……ここ。」
「えっ、」
反対側に指を沿えられたかと思うと、ついていたらしいクリームを掬い、久々知はそのまま自らの口に運んだ。
「どうかした?」
「いや、どうかっていうか………」
寒いはずなのに顔は熱く火照り、口を開閉するも二の句が告げられない。
「兵助くん、そういうのは二人だけの時にしてよ〜」
「三郎次せんぱい、急に目隠しして何なんですか?」
「お前は見なくていいんだ!」
「……私、何かしたか?」
「解らないならいいです、うん。」
この天然の前では、やられた側だけが恥ずかしいのだ。