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「みんな聞いてくれ!」
「どうしたの、左門。」
「なんかやけに楽しそうだな。」
食堂で声を張り上げる左門に、同じ食卓を囲んでいる三年生が注目する。皆一応聞く態勢ではあるようで、は組の数馬と藤内が話しかけると、左門は満足そうに続きを話しだした
「実はこの前、うちの委員会に助っ人が来てな。」
全員、おばちゃんの作った煮物や焼き魚に箸を伸ばしながら左門の話に耳を傾ける。今のところ話題性に富んだ話でもなさそうなので、せっかくの美味しいご飯が冷めない様、食べながら聞く事にしたようだ。
だが次の言葉を聞いた時、誰もが手を止め、左門を見つめた。
「そいつはくのたまだったんだが、どうやら三木ヱ門がそいつを好いているみたいなんだ!」
「……まじ?」
「あの武器オタクが?」
三之助と作兵衛に聞き返され、しっかりと頷く左門。だが面白いのはここからだとばかりに、口角を吊り上げる。
「しかも団蔵もそいつが好きみたいでな。二人が近付く度に三木ヱ門がそわそわしてるんだ。」
「一年相手に余裕ないんだな。」
一番興味なさそうにしていた孫兵が一番辛辣な言葉を吐いた事に、一部が苦笑する。そしてこんな話を聞いては、そのくのたまが誰か、気にならないはずがない。
「で、そのくのたまって?」
「四年の名字名前だ!」
なぜか胸を張って答えた左門に驚きの目が寄せられるが、それもそのはず。三之助以外は皆、その名前に聞き覚えがあった。
「その人保健委員会にも来た…」
「用具にも来たぞ。」
「そういえばこの間、虎若達が虫探しを手伝ってもらった人も、そんな名前だったな。」
それぞれに共通している事は、名前が一年は組の生徒に頼まれて手伝いに来た、という事だ。生物委員会は頼まれてという訳ではないが、一年は組の二人を手伝ったのだから、結局は似たようなものである。
これらの事から、名前はかなりのお人よしか、少なくとも一年は組の頼みは断れないのでは、と推測する。
「委員会の時も思ったけど名字先輩って……」
「「くのたまっぽくない」」
満場一致の意見だが、唯一『名字名前』と正式に会っていない三之助には、どういう人物か全くもって解らない。俺もその人見てみたいな、と呟いた彼に、数馬がある方向を指し示す。
「三之助も保健室で見たじゃない。あ、ほら噂をすれば……あの人だよ」