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食堂のおばちゃんにお茶を貰いに来ていた名前は、斜め後ろから名前を呼ばれ振り返る。
呼んでいたのは、昨日作法委員会で会ったばかりの藤内だった。彼とはそんなに話した覚えもないが、全く知らない人でもないし、こうして声をかけられたのだから、とりあえずそちらへ足を進めてみる。
「こ、こんにちは」
行ってみればそこには藤内だけでなく、最近の助っ人関係で出会った少年達も揃っていた。年の近い三年生がこうも沢山いると途端に緊張してしまうが、何とか全員に挨拶をする。
が、一人の少年を目に止めるなり硬直してしまい、名前は思わず藤内に詰め寄って耳打ちする。
「う、浦風君っ!富松君の隣の背が高い子って」
「三之助ですか? あ! はい、あいつは体育委員ですけど勿論お嬢様の正体は知りませんよ」
内緒話をするような名前に最初は訝しんだ藤内だったが、言いたい事が解って納得する。昨日、作法委員は仙蔵に箝口令を敷かれたのだ。お嬢様イコール名字名前という事を、他の人に話すべからず。
内緒にしておいた方が面白そうだろう、と言っていた仙蔵を思い出し名前に同情する藤内だったが、小平太に存在を知られたくない名前にとっては、好都合だった。
「あ、そういえば浦風君何か用だった?」
「あ、はい。あの、昨日は立花先輩の件で助けてあげられなくて、すみませんでした」
深々と頭を下げる藤内は、実は昨日仙蔵を止められなかったことを気にしていたらしい。
しかし三年生が六年生に意見できると思うわけもないし、後輩に助けてもらうつもりもなかった。そもそも藤内は一切悪くないのだ。
「だから顔を上げて。私は全然気にしてないし」
「そ、そうですか……よかった」
「へぇ、そんなに大変だったんだ、作法委員会」
「そりゃもう!名字先輩が立花先輩達の玩具にされて…って、」
相槌を打ちながら振り返った藤内は、予想外の人物に思わず息をのむ。
「「「鉢屋三郎先輩!?」」」
なぜこの人がここにいるのだろうか。それは、この場にいる全員が思った事だ。
「名字さん昨日作法委員会に行ったんだ?」
「え……はい」
「他の委員会にも行ったんだろ?」
「何故それを……」
「一年は組経由」
しかし気のせいだろうか。心なしか名前の顔色が悪く、鉢屋から距離をとっているように見える。
「しかし水くさいな。委員会を見学しているなら、うちにも顔を出したらいいのに」
「あ、あれは見学じゃなくて」
「何、是非伺いたい? そうかそうか。ちょうどこれから委員会があるんだ。一緒に行こうか」
「ええっ!?私そんな事言ってな……はっ、離してくださいぃぃ!」
話しを聞く気がない鉢屋が嫌がる名前の腕を強引に引っ張って食堂を出て行くまで、三年生は全員唖然としながら眺めていた。
「鉢屋先輩、楽しそうだったな」
「名字先輩は嫌がってたけどな」
「というか怯えてなかった?」
「どうしよう。俺、また助けられなかった」