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カチャカチャ、ゴトン。
ほの暗い室内に響き渡る音。晴れた日の昼間とはいえ、小さな窓から刺す陽光だけが照明となっている焔硝倉の中、私は一人黙々と作業をしていた。
「ふぅ。あと少しで終わりだ。」
授業で使った火薬壷を片付ける手をとめ、額の汗を軽く拭う。本来ならばその作業は当日の日直である二人でやるものだが、あいにくもう一人の日直は先程の授業で怪我をしてしまい、保健室へと直行した。そのため結構な量があるにも関わらず、私は一人で焔硝倉にいるというわけだ。
「次は自習だからちょうどよかった。」
くの一教室で使用したものを片付ける際、他の組(恐らく忍たま)が使っていたであろう火薬壷が無造作に置かれているのが気になり、時間に余裕があるのをいいことに、つい整理整頓を始めてしまった。
そしてその整理整頓も終わり、後は自分達くの一ち教室で使ったものを納めるだけ。止めていた手を再び動かし始めた時、外に気配を感じた。
「えっ…まさか忍たま?」
もうそろそろ次の授業が始まる時間なのに、一体誰なのか。神経を張り巡らせて気配の元を探っていると、それは自分より幾分か幼いもののように感じた。
(足音も消してないし、これは下級生だな)
理解した途端、肩の力が抜ける。同い年以上の男は苦手だが、年下ならばさほど人見知りもしない。
「あぁ〜今から片付けてたら土井先生の授業に間に合わない!」
「虎若がいつまでも火繩銃離さないからだろ!」
「ごめんって団蔵。とりあえず置いといてさ、授業が終わったらまた片付けに来ようよ。」
「そうするしかないかな……あ」
軽い口喧嘩をしながら入ってきたのは、水色に井桁模様の制服を纏った忍たま一年生二人だった。
団蔵と呼ばれた少年が最初に名前に気づき、顔を強張らせる。突然足を止めた彼を不審に思った虎若と呼ばれていた少年が奥に視線を移すと、これまた同じように表情を強張らせた。
(何もそこまで怯えなくてもいいのに)
たしかに、忍たまは入学した時の歓迎会以来何かとくのたまに罠を仕掛けられたり下剤を盛られたりしているが、名前はその性格から、授業でもない限り他のくのたまのように積極的に悪戯することはない。
「こ・このへんに置いとくか!」
「そ・そうだな、次の授業が終わったら片付けにこよう!」
目があったとたん逸らされ、緊張のため早口でわざとらしくまくし立てた二人は、そそくさと去って行った。
「………わたしそんなに怖そうに見えるかなぁ。」
溜め息を吐いた後、名前は彼らが持ってきた火薬壷も片付け始めた。