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 食堂に入って来た七松小平太は違和感を覚えた。
一見するといつもの食事風景なのだが、僅かに感じた変化を探ろうと辺りを見渡す。
 すると、くのいち教室の生徒たちのもとで視線が止まった。
いつもなら煩いと感じるほど賑やかな彼女たちだが、今日は幾分か抑えた声音で、どことなく暗い雰囲気が漂っている。
 一体どうしたことだろうと気になるも、周りの忍たまたちは特にいつもと変わりがないし、くのたま内で何かあっただけで、大したことではないのだろうと、七松はすぐに興味を失う。実はこれが彼に大きく関わる出来事に繋がっているのだが、この時の七松には知り得るはずもなかった。



 夕食を終えた七松は、風呂へ行こうと廊下を歩いていた。通りがかりに同級生の伊作と食満が立ち話をしていたので、なんとなくそちらに意識をやる。しかし特に声をかけるつもりもなく、そのまま通り過ぎようと思っていた。彼らの会話が耳に入ってくるまでは。

「行方不明? 誰が?」
「くのたま四年の名字名前ちゃんだよ。留三郎のとこにも来てただろう」

伊作のこの言葉を聞き目を見開いた七松は、ほぼ無意識に動いていた。

「伊作、今なんて言った」
「え、小平太?」

とつぜん話に入ってきた七松に驚いた伊作だったが、鬼気迫る雰囲気に押されてもう一度同じ言葉を繰り返す。

「だから、くのたま四年の名字名前ちゃんっていう子が行方不明かもしれないって」

しっかりと聞いたその名前に、ある少女を思い浮かべる。いや、そんなことあるはずがない。
彼女がこの学園に入ったという話は実家からも聞いていないし、きっと同姓同名の子がいるんだろう。そう納得しようとするが、胸に何かがつかえてすっきりしない。その時、ふと埋れかけていた記憶が蘇る。

 きり丸についていた残り香や、先日の委員会で感じた懐かしい香り。
その時は何の香りだったか思い出せず、また探る気もなかったため記憶の角に追いやっていたが、懐かしい名前を聞いて思い出した。
 あれは遠く幼き日々に、いつも傍にあったもの。忘れられない、忘れるはずもない少女の香り。
その少女と同じ香りがした少女、仙蔵の遠縁といったお嬢を思い出す。割符がかちりとはまった。

「あれは名前だったのか……」

驚愕の事実に呆然としかける七松だったが、今はそれよりも大事なことを伊作たちは話していたはずだ。

「名前が行方不明とはどういうことだ?」
「朝でかけたきり帰って来ないってくのたま達が言ってるのを聞いたんだよ」

普段は帰りが早いし、無断外泊をするような子でもないから何かあったんじゃないかと、くのいち教室ではちょっとした騒ぎになっているらしい。

「四年生だし大丈夫とは思うけど、裏山で足止めに合っている可能性もあるらしいから、僕は念のために保健室で待機をしておこうと……って小平太!?」

伊作が言い終えるのも待たずに七松は走り去ってしまい、後に残された伊作と食満に疑問だけが残った。

「小平太って名前ちゃんと知り合いだっけ?」
「そんな話は聞いたことないが」

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