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 少女を捜して夜の山道を走る。昼間から降り続く雨のせいで足場は悪く、身体の熱が奪われていく。
どこかで雨宿りをしているかもしれないが、何故かあの子はここに居ると七松は直感していた。
泥濘に足をとられるのも、細かい枝が皮膚をかするのも気にせず、少女の姿を捜しながらひた走る。
途中で後輩とすれ違った気がしたが、それにも構わず前へ進む。そして一本の木の前を通りかかった時、その足を留めた。

 枝が不自然に折れたその木の根元を見れば、ぬかるんだ土に何かがずり落ちたような形跡が確認できた。逸る心臓を抑え下を覗くと、見たくなかった光景に眉を顰める。
すぐさまそれに近寄りそっと抱き上げ、背におぶって壁を蹴る。捜していた少女は、全身泥だらけのままずぶ濡れで横たわっていたのだった。

 上がった先ではやはり先ほどすれ違っていた後輩たちが話しかけてきたが、彼らもこの子を捜していたのかとか、知り合いだったのかなどの疑問は全てどうでもよく、端的な会話だけを交わして学園への道を急ぐ。
降りしきる雨に当たらないよう自分の上衣をかけた少女を背に感じながら、以前にもこんなことがあったなと七松は記憶を辿った。



 あの日も酷い雨だった。
朝から怪しい空模様だったというのに、幼い七松たちは遊びたい欲求を抑えきれず、雨が降るまでの間だけ、と決めていつものように山遊びを始めてしまった。地元の山だからと油断していたのだ。

「なまえー! どこだー!」
遊びに夢中になるうち逸れてしまった名前を捜して、幼い七松は自身が濡れるのも構わず山中を歩き回る。すると、雨の音に紛れて誰かが啜り泣く声が聞こえてきた。

「ひっく、うぅっ」
「なまえ!」

泣き声の元は名前で、転んで足をくじいたらしく、大きな木の根元にぽっかりと空いた穴の中で蹲っていた。
こへくんこへくんと何度も名を呼びしがみつく名前を安心させようと、彼女の頭を撫でる七松。この時、名前の体が熱い事に気付いて一瞬眉を寄せたが、すぐに笑顔を浮かべた。

「もう大丈夫だなまえ。私が家まで連れて行ってやるからな」

正直、歩けない名前を連れて無事帰れるかは七松自身も不安だった。それでも名前を置いていく事はできない。

 冷え切った名前を背負い不安定な足場を慎重に進むが、七松自身も寒さと疲労でついに膝をついてしまった。

「おや、こんなところに子供がいるとは」

とつぜん降り注いだ声に七松が顔を上げると、いつの間にそこに居たのか、黒ずくめの忍者服を着た男が立っていた。
反射的に背中の名前を隠そうとした七松だったが、それより先に男が名前を抱き上げる。
いつの間にか気を失っていた名前は、抵抗する事なく男の腕に収まった。

「なまえを返せ!」

七松がいくらがなったり睨んだりしてみても子供のそれなど怖くはなく、男は余裕の態度を崩さない。

「君にはこれ以上無理だよ。二人とも私が送っていってあげるから大人しく着いてきなさい」

いつまでもこんなことをしていたらこの子の容体が悪化してしまうよ、と名前を見やった男に、七松は苦虫を噛み潰したような顔になりながらも抵抗することをやめた。だが名前に何かするようなら許さない、と最後に睨むことも忘れない。

「うーん、いい目だ」

それすら意に介さない男はむしろ楽しそうで、七松を背負い名前を抱いたまま山中を駆けた。
自分がやりたかったことをいとも簡単にやってのけてしまう男に悔しさを感じながらも、忍者になれば自分もこんな風に名前を護れるだろうか、と幼い七松は考えた。

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