TOP > rkrn > 雨夜

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 西に傾き始めていた太陽がもうじき沈みきるだろうという時間帯だが、空を見上げても黒い雲がひしめき合っているだけで、それを確認することは出来ない。
疎らに降っていた雨は大粒になって全身を打ち付け、綾部の眉間に皺を寄せさせる。

「喜八郎、そろそろ行くぞ」
「滝夜叉丸、名前がまだ帰ってこないんだ」

くのたまとはいえ暗がりを女一人で歩くのは危険だ。名前もそれを解っているからこそ、今までの外出ではこんなに遅くなることなど無かったのに。
 この天気で立ち往生しているのだろうか。もしかして、泥濘に足をとられて怪我でもしているのかもしれない。心配しすぎかとも思うが妙に騒ぐ胸を無視することはできず、綾部は鋤を掴み直して塀へと向かう。

「どこへ行くんだ喜八郎。もう夜間実習が始まるぞ」
「名前を探してくる。滝は実習に行ってていいよ」
「そんなことできるか! この実習は実力テストも兼ねてるそうだ。参加しなければお前、留年するかもしれないぞ」
「そんなことより名前のほうが大事だよ」
「喜八郎!」

制止の言葉を物ともしない綾部に、いつになく真剣味を帯びた滝夜叉丸の怒声が降り落ちる。これにはさすがの綾部も驚いたようで、ぴたりと動くのを止めて振り返った。

「少し冷静になれ。名前のことならさっき山本シナ先生に報告してきた。これ以上帰りが遅いようなら先生方が動くだろう」

名前が心配なのは滝夜叉丸も一緒だ。だが自分たちは一生徒にすぎない。人出がないならまだしも、身体の空いている教師や上級生は他にたくさんいるのだ。彼らが授業を放ってまで勝手な行動をとるのは許されないだろう。

 本当は滝夜叉丸だって今すぐ名前を捜しに行きたいのだ。その思いを堪えて綾部を説得している。彼は、いつの間にこんなに成長していたのだろう。

「名前のことは先生方に任せよう。それよりも名前が帰ってきた時、自分のせいでお前が留年するかもしれないと知ったら、あいつは間違いなく自分を責めるぞ」

お前は名前にそんな辛い思いをさせる気か。その言葉が決定打となり、綾部は鋤を持つ手の力を抜いた。

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