TOP > rkrn > 雨夜

2


 なんとなく、なんとなく胸の奥が騒ついて、団蔵は意味もなく虚空を見つめた。その姿は、傍から見れば悩み事を抱えて黄昏れているようにも見えたかもしれない。

「どうかしたの団蔵」

団蔵の珍しい様子に気付いた庄左ヱ門が、彼に歩み寄る。
学級委員長としての気配りだろう。いつもと違う団蔵の雰囲気を敏感に察知した庄左ヱ門は、わざわざ様子を窺いに来たのだ。
 だがこの気持ちをどう言い表したものか団蔵には解らず、なんでもないと言うしかなかった。

「そう? ならいいけど」

そもそも原因も解らずもやもやした気分になっているだけで、何かに思い悩んでいるわけではないのだ。
自席へ戻る庄左ヱ門を見送り、団蔵は補習授業の準備に取り掛かった。





「なんか向こう騒がしいな」

校庭から校舎へ戻ろうと歩いていた竹谷は、そことは反対方向へ顔を向ける。
共に歩いていた久々知や鉢屋たちも気になるらしく、彼らは渦中の場所へ行ってみることにした。
 そこは近い場所ではあったが、たどり着くまでの僅かな間に静けさを取り戻したところをみると、どうやら騒ぎは既に収まったらしい。それでも一応と覗いてみれば、そこには重々しい空気を纏った後輩が二人立っていた。

「滝夜叉丸に綾部じゃないか」

鉢屋に呼ばれて先輩らの存在に気付いた二人は、軽く会釈をする。

「こんなところで何をやっているんだ」
「たしか四年生は次の時間から夜間実習だろう?」

尾浜と久々知に問われ気まずそうな顔をした二人は、互いの視線を巡らせ合ったかと思うと、先に顔を上げた滝夜叉丸が言い辛そうに口を開いた。

「なるほどな」

四年生にもなる女子を相手に心配しすぎな感はあるが、気持ちは解らないでもない。
 この天気の中、普通なら足場が悪くなる前に早々に帰ってくるはずだ。
それと、彼女が一人で出かける時はいつも必ず夕刻前には帰ってきていたというのも、彼らが心配せずにはいられない理由だろう。

「わかった。名前のことは俺たちが捜しておくから、お前たちは安心して授業に行ってこい」

そう言って自分たちの肩を叩く竹谷の笑顔が、綾部と滝夜叉丸にはとても心強いものに思えた。
 歳は一つしか違わないのに、こうも違うものか。悔しい気持ちはありながらも、頼りになるという安心感が確かにある。ここは彼らに任せるべきだと判断した二人は、素直にその場を去って行った。

「どうしたんだ三郎」

先ほどから黙ったままの鉢屋を不審に思った不破が問いかける。
それに鉢屋は神妙な面持ちで、さっきはあの二人の手前言い出せなかったんだが、と切り出す。

「名前が行ったという町、表通り以外に近道があるだろう」

ああ、裏山に繋がるあの道。
呟いた尾浜に頷き、さらに鉢屋は続ける。

「最近あの辺りに山賊が出るという噂を耳にしたんだ」

その言葉が放たれた瞬間、空気がぴりりと鋭くなった。
鉢屋の言いたい事が、全員わかったようだ。

「あそこは人気もないし普通はあまり通らない道だが」
「この雨だ。早く帰ろうと近道を選ぶことも有り得るってことか」

鉢屋の言葉を受けて目配せをした久々知に、皆が頷く。誰からともなく、裏々山へと足を動かしていた。

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