TOP > rkrn > 胸騒

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 今日の綾部は落ち着きがなかった。
他の人が見て気付くほどではなかったが、内心妙にそわそわしている。
 そわそわといっても楽しみが控えている時のような明るいもの、或いは心を焦がすような甘酸っぱいものではなく、どちらかといえば焦燥感に似たなんとも不快な類のものだ。

 鈍色に染まる空のせいだろうか。空模様が心情に影響するといった人が多いのは事実だが、しかし綾部はどちらかというとその部類の人間ではなかった。

 原因も解らずに漠然とした感情を持て余した綾部は、ある少女の顔を思い浮かべる。

特別愛らしいわけでもなければ美しいわけでもないのに、何故か心地よい声。はにかみながら浮かべるあの笑顔を見れば、こんな気分も吹っ飛ぶだろう。

 そうと決まったら善は急げだ。最近はすっかり通い慣れたくのいち教室への道を歩く。もちろんくのいち教室は男子禁制なので、敷地の入り口で立ち止まった綾部は、そこらに居たくのたまを適当につかまえていつものように彼女の居場所を尋ねる。

「名前なら学園長先生のお使いで外出してるわよ」
「そう……」

貴方たち仲良いわよね、と言うくのたまに頷くだけして、足早にその場を去る。

 厚い雲の上ではもう太陽が真上に昇っているだろう。せっかくだから昼餉を共にしようと考えていたのに、出鼻を挫かれた気分になった綾部は一人、湯気の立ち昇る白米を口に運んだ。

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