2
用事を終えた帰り道。ふらりと街に立ち寄って、居並ぶ店々を眺める。
湯気の立ち昇る一角には今噂の饅頭屋が鎮座し、絹の如き舌触りと評される漉し餡を道行く人に試させている。
チカチカと眩しい光に視線を移せば色とりどりの小物が並んでいる小間物屋が映り、未成熟ながらもしっかりと存在している女心を掴まえる。
鏡や結紐、簪に紅入れなどが所狭しと並んでいる様は遠目に見ても豊富な品揃えだというのが解り、女性客がひっきりなしに出入りしていた。
ふと、どこからか漂う甘く香ばしい香りが鼻腔を擽り、そんなに減っていなかったはずのお腹がきゅうと鳴る。
匂いを辿って視線を動かせば出張販売をしている街外れの鰻屋に行き当たり、人気店だからか昼時だからか、かなりの行列ができていた。
どこもかしこもうら若い女子には魅力的な場所だが、さてどこから周ろうか。おつかいとはいえ久しぶりの外出に、名前の心は少なからず浮かれていた。
「まずはお昼を食べて……帰りにあやちゃん達へのお土産も買っていこうかな」
「あ」
鼻先に触れた冷たいものに顔を上げると、先ほどよりも暗くなった空から疎らな雫が落ちてきた。瞬く間に量を増したそれは足元に染みを作り、土の色を変えていく。
念のため笠を被ってきていてよかった。ほ、と一息はいた名前は止まっていた足を今度はもっと早く動かし、帰路を急ぐ。とりあえず笠のお陰で着物への被害は少ないだろうが、手荷物が心配だ。早く帰ったほうがいいだろう。出来たてで買った饅頭の包みを濡らさないように、懐へと抱え直した。