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 三年生の頭上を一回りした戦輪が滝夜叉丸の手に戻ったのが開戦の合図となった。

 いつの間に持ち込んだのか、大きな鉄鍋を盾に滝夜叉丸目掛けて突進する三之助。
 上手く考えたものだ。
これでは戦輪を当てれば跳ね返されてしまうし、ぶつけた拍子に歯こぼれを起こしてしまうかもしれない。
それは戦輪を武器として使っている以上仕方のないことだが、こんなところで格下相手に戦輪、もとい輪子を傷つけたくはないと滝夜叉丸は思った。

「くっ……! こうなったら体術で勝負だ! 私の華麗な体捌きをとくと見せて……ってこらあ三之助ぇ! どこに行くー!?」

輪子をしまい堂々と構えた滝夜叉丸に対し、三之助はあろうことか急に方向を変えてそのまま走り去ってしまった。
 走り去ったといっても三之助は逃げたわけではない。
鉄鍋を顔の前に翳していて前が見えなかったからというわけでもない。
 彼を知る者ならば誰しも予想できるだろう。
そう、彼は持ち前の無自覚な方向音痴を発揮しただけなのだ。
 そしてまた、こうなってしまってはなかなか戻って来ない事も、彼を知る者ならば解っている事だった。

「ならば三反田、次はお前だ!」
「え、うわあああああ!」

再び輪子を取り出した滝夜叉丸は、次は数馬を狙った。
 数馬は鉄鍋なんて持っていなかったし、本人が腕前を威張るだけの事はある戦輪を苦無でいなす程の技量もないので、逃げるしかない。
 輪子は縦横無尽に舞うが命中する気配はなく、まるで追い詰めるのを楽しんでいるかのようだ。
 それでも時折すれすれの距離で通りすぎていくものだから、じっとなんてしていられない。

 段々と息が上がる様子に限界が近付いているように見える数馬だったが、不意にその姿が消えた。
四方見渡せど数馬の姿は影さえ見つけられず、この見通しの良い場所で煙玉も使わず見事逃げ仰せたものだと悔しそうに唇を噛んだ滝夜叉丸は、彼を捜すために彼方へと駆けて行った。

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