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「た、助かった……!」

軟らかい壁に囲まれた数馬は、ひんやりとしたそれに背中を預けて息を整える。
 頭上を仰げば丸く切り取られた青が広がっており、そこから差し込む陽射しが汗に反射してきらりと光る。

「まさかこんな所に蛸壷があったなんて」

さほど深くもないが巧妙に仕掛けられたこの罠は間違いなく綾部の仕業だろう。
 普段なら不運だと嘆くところだが、今回ばかりは助かったと初めて彼に感謝する。
 落ちたついでに少しばかり休んでいこうと瞼を閉じれば、まるでそれが遠い場所のように地上の音が聞こえた。

「は組で一番を取った僕の手裏剣が全部弾かれるなんて……!」
「三年生の手裏剣なんか当たるわけないでしょー」

地に膝をつく藤内の前で構えていた踏耡を下ろした綾部は、相変わらずの無表情で吐き捨てた。
気の抜けた言い方がまた癇に障り、藤内にはますます悔しさが募る。

「手裏剣がだめなら……これでどうですっ!」
「!」

打ちひしがれる藤内に代わり、今度は孫兵が綾部に向かって腕を延ばす。
飛び道具にしては勢いがなさすぎるそれは赤く細長く、目に留まる派手さを備えている。

「行けっジュンコー!」
愛するジュンコを傷付けないように優しく放ったのが孫兵の失敗だろう。
ジュンコの攻撃に容易に反応出来た綾部は、踏耡を持ち上げ、ジュンコを叩き落とす構えを見せた。

「なっ、ジュンコ危なぁーい!」

綾部がしようとした事を瞬時に理解した孫兵は必死の形相でジュンコの方へ走り出し、滑り込みでなんとかぎりぎり綾部に届く寸前でジュンコを受け止めた。

「ジュンコに何するんです!」
「まだ何もしてないけど」
「まだって事は何かするつもりだったって事じゃないですか!」

綾部先輩には血も涙もないんですか。
がなる孫兵に、毒蛇をけしかけた奴が何を偉そうに、と返す綾部。
正論すぎて反論できるわけもない。
武力でも口でも勝てなかった藤内と孫兵は、素直に負けを認めるしかないのだった。

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