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忍たま四年生とくのたま上級生が校外実習を行っていた頃、忍術学園一年は組の教室では生徒達が束の間の休憩時間を珍しく室内で過ごしていた。いつもならサッカーや鬼ごっこで我先にと皆校庭へ出ていくのだが、今日は金吾が団蔵と虎若に振った話題に全員が注目して足を留めたのだ。
「この前名字せんぱいに会ったよ。」
「えっそれほんと金吾?」
喜三太が反応したのを皮切りに、クラス全員が金吾の元に集まりだす。
「名字せんぱいってこの前団蔵と虎若が言ってた、優しくて可愛いくのたま四年生のせんぱいだよな。」
「うん。金吾いつ会ったの?」
「団蔵達が食堂で話してた日だよ。あの後、掃除の時間に七松せんぱいに捕まってバレーをしてたらボールが飛んでいってさ、」
その時あった事を話せば皆しきりに感心する。
「へえー名字せんぱいってやっぱり優しいんだ。」
「うん。それに二人の言う通り、か・かわ…」
「ん?何だよ金吾、はっきり言えよ。」
きり丸に促され、金吾は真っ赤に染まった顔を俯かせて蚊の鳴くような声で呟いた。
「か、かわいかった…」
「うそおぉぉ!?」
「金吾が、」
「あの剣一筋の金吾が!」
「まさか好きになったの!?」
「ちっ違うよ!そんなんじゃなくて、ただ怖くて泣いてたのに僕に気をつかって無理に笑ってた顔がかわいかったなって。ほら!団蔵も笑顔が可愛いんだって言ってたじゃないか!」
「ああ〜そういえば言ってたね。」
「だろ?」
「わかった、わかった。とにかく名字せんぱいは二人の言う通り笑顔が、「泣き顔が可愛いってことだね。」
「え?」
笑顔が可愛い、とまとめようとした乱太郎の言葉は不運にも別の人物によって邪魔されてしまい、その誰もが予想だにしなかった発言をした人物に視線が集まる。
「兵太夫?」
「今の会話の流れで何でそうなっちゃうわけ?」
「やっぱり作法委員会だから?」
「ああ、作法委員会てそういうところあるよね。」
クラスメイト達が密やかに囁き合う中、当人である兵太夫は非常に楽しそうな顔で立ち上がる。
「そういえば、そろそろ合同実習に行っていた四年生とくのたま上級生が帰ってくる頃だよね。僕ちょっと行ってくる。」
勢いよく教室を飛び出した彼の後ろ姿からは、決して良い予感は感じられなかった。
「…兵太夫って最近立花せんぱいに似てきたと思わない?」
「まあS法委員会だからね。」
「兵太夫のやつ、まさか名字せんぱいに何かする気じゃあ…俺、ちょっと行ってくる!」
「あ、団蔵!?」
「仮にも上級生なんだから、そんなに心配しなくてもいいと思うんだけど、って。」
「もう行っちゃったよ。」