TOP > rkrn > 一難


課題に必要な資料を借り終えた名前は、図書室から出て一人廊下を歩く。図書室は忍たまの敷地内にあるが、休憩時間である今は外で遊ぶ生徒が多く、目論見通り誰にも遭遇せずに戻れそうだと安堵の息を吐いた時だった。

「うあっ」

視界が遮られたと気付いた瞬間には既に衝撃を受け、そのまま尻餅をついていた。どうやら曲がり角で見えなかった誰かとぶつかったようだ。

「ご、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ……あ」
「え?……あ」

相手の妙な反応に視線を上げれば、見覚えのある顔。次屋三之助。会話したことなどほぼないが、それでもお互いに何度か顔を合わせたことはあるという、微妙な関係だ。
しかしそんなことはどうでもいい。それより問題はこの体勢だ。
名前にぶつかりそのまま倒れ込んだ三之助は、尻餅をついた名前に覆い被さるような格好になってしまっている。
誰かに見られたら誤解されそうなこの状況。こういう場合は普通、お互いに謝罪をしたらすぐに立ち上がるものではないだろうか。なのに彼は離れるどころか、更に顔を近づけてくる。そのあまりの近さに、名前は思わず息を飲んだ。

極度の人見知りとして生きてきた名前にとって、異性とこれ程までに距離を縮めるのは稀有なことだ。そんな彼女にとって、大した交流のない三之助に対し緊張してしまうのは無理からぬ事と言えるだろう。

「つ、次屋く」
「んー名字先輩の顔ってやっぱりどこかで見たような……」

名前の顔を凝視しながら首を傾げる三之助。彼が言っているのはあの時のことだと、名前にはすぐにわかった。彼女が作法委員会、主に作法委員長によって全くの別人を装わされ、お嬢として体育委員長に攫われた事件。ちょうど友人の滝夜叉丸が体育委員だったため、彼に協力してもらいあの時はなんとか事なきを得たが、そういえば目の前にいる彼も体育委員で、当然あの場に居合わせていた。
恐らくそれが彼の記憶の底に引っ掛かっているのだろう。ここでその事に気付かれてしまえば、名前が最も知られたくない人物にまで伝わってしまうかもしれない。なんといっても、その人物と彼は同じ委員会なのだから。

しかし幸いなことに彼はまだ気付いていないようなので、早急に離れてしまえばこのままばれずに済むはずだ。名前とてくのたまの端くれ、力任せに押し退けるなり術を仕掛けるなりして、強行突破も出来るだろう。
だが三之助がこんなにも接近している今、極度の人見知りである名前にそんな事を思い付く余裕などなかった。

「次屋く、あの、近っ」
「んー」

異性が苦手といっても年下は平気なはずの名前だったが、やはり一つしか違わないと同年相手のように緊張してしまうらしい。三之助が平均より背が高いことも要因かもしれない。
その上、緊張で小さくなる自分の声も気付かれないとなると、本当になす術がない、と名前は静かに唇を噛んだ。

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