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今日は火薬委員会の活動があるから、焔硝倉の前に召集がかかっている。掃除当番で遅れた僕が時間ぎりぎりに着いた時には、既に委員長代理の久々知先輩と一年の伊助が待っていた。けど、まだあと一人足りない。
「タカ丸さんはどうしたんですか?」
「それがまだなんだ。四年の授業はとっくに終わってるはずなんだが…」
掃除当番だという話も聞いてないし、と困った様子の久々知先輩を見て、また忘れてるんじゃないか、あの人は前科があるし、と考えていた時だった。
「遅れてごめーん」
「タカ丸さん遅いですよ!今まで何して…」
振り向いた先にいた人を見て、最後の言葉が詰まった。遅れてきたタカ丸さんに隠れるようにして俯くくのたま。彼女は四年の名字名前と言い、何故か久々知先輩と伊助も知っている人らしい。タカ丸さん曰く助っ人との事だけど、明らかに無理矢理連れてきた風だ。でも人手が増えるのはありがたいから、そこはあえてつっこまないでおく。
こうして今日の火薬委員会の活動が始まった。
「名字先輩って、どういう経緯で久々知先輩と知り合ったんですか。」
「えっ」
火薬壷を片付ける手は休めずに、気になっていた事を聞く。同級生のタカ丸さんや、何かとトラブルメーカーになる一年は組の伊助はともかく、年上で忍たまの久々知先輩と彼女の接点が思い浮かばないのだ。
「何か言い辛いことでも?」
「えっいやそんなことは」
言い淀みながら何故か後退っていく彼女がなんとなく面白くて、僕もじりじりと彼女に迫る。鬼ごっこで人を追い詰めた時のような昂揚感に恍惚としながら、でも一応先輩だしそろそろやめておくか、と足を止めた瞬間、彼女の肩が背後の棚に触れたのが視界に映る。
「危ない!」
「えっ?」
棚の中の壷が傾いたのも、それが彼女に向かって落ちていくのも、固まる彼女を黒い風がさらっていくのも、全ての光景が僕の目にゆっくりと映った。
(瞬きの合間ほどの時間だったのに)