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3


またじゅんこがいなくなった。

いつも自分の首に巻き付いている赤い鎌首を思い浮かべ、溜息を吐く。じゅんこが散歩好きなのは知ってるけど、僕の目の届かない所まで行かれると心配で心配でたまらない。
僕はじゅんこを綺麗で可愛いと思うけど、苦手だと思う奴の方が多いのが事実。知らない間に危害を加えられたりしていたらどうしようと考えるといてもたってもいられなくなって、自分の所属する生物委員会の面々に応援を頼みに行った。

いつもみたいに委員長代理の竹谷先輩にまず頼もうと思ったけど、そういえば先輩は今、僕の同級生に頼まれて名字名前というくのたまを連れ戻しに行っていたんだと思い出す。確か学級委員長委員会に行ったはず。あそこの活動場所はここからは遠い。早くじゅんこを探したい僕は、とりあえず近くにいた一年の群れの中から生物委員を探し出し、一平と孫次郎に竹谷先輩を呼んで来てくれるよう頼んだ。
残る虎若と三治郎には先にじゅんこ探しを手伝ってもらうことにして、それぞれの方向に散った。





暫くして僕の前に現れた竹谷先輩は、遅くなって悪いと言ってすぐに地面に這いつくばる。真剣な目で草むらをガサガサいわせる竹谷先輩は、いつも同じような事を頼みにくる僕に嫌な顔一つせず、こうして一緒に頑張ってくれる優しい先輩だ。優しいといえば、さっきの同級生達との一件を思い出す。


「名字先輩は大丈夫だったんですか?」

「ん?名前?」


さっきは僕の同級生達に頼まれて名字先輩を助けに行ったはずだが、今竹谷先輩は一人で来た。頼まれ事を途中で放り投げるような人じゃないし、名字先輩はもう大丈夫なのかと思って確認のために聞いてみただけだった。でも竹谷先輩の口から出てきた言葉に、僕は思わずじゅんこを探す手を止めてしまった。


「名前なら途中で虎若達に会ってまた頼まれてたから、今向こうでじゅんこ探すの手伝ってるよ。」


いや、人手が増えるのは有り難いんだけど、彼女は平気なんだろうか。じゅんこは綺麗だけど爬虫類で長くて毒を持っていて、所謂毒蛇という生き物なんだけど、女は大抵そういう生き物が苦手なものだ。
噂を聞くに、名字先輩はじゅんこに危害を加えるような人ではなさそうだが、見つけても怖がるだけじゃないのか。そんな事を考えていた僕は、後ろから聞こえた虎若達の声に立ち上がる。


「竹谷せんぱい、伊賀崎せんぱい!」

「名字せんぱいがじゅんこ見つけました!」


振り向いて映った光景に、目を丸くした。そこには、いつも僕がしているみたいにじゅんこを首に巻き付けて立っている名字先輩の姿があったのだ。
これには竹谷先輩も驚いたらしく、蛇が平気なのかと尋ねている。


「私、小さい頃はよく山で遊んでいたので、蛇は慣れてるんです。」


虫は未だに慣れないですけど、と言った名字先輩は、じゅんこが毒蛇だということを知っているのだろうか。でもそれは何となく聞かない方がいい気がして、お礼を言ってさっさとじゅんこを受け取った。
そういえば、竹谷先輩の質問につかえずに答えた事も気になる。
食堂で同級生や鉢屋先輩と話していた時はもっとおどおどしていて、異性もしくは人が苦手なんじゃないかと思っていたんだけど。


「竹谷先輩って、名字先輩と仲良いんですか?」


彼女の竹谷先輩に向ける表情が、気を許した人に向けるそれのように感じて、思わず口から出てしまった疑問。でも返ってきたのはてんで方向違いな言葉だった。


「な…なあ孫兵、やっぱり俺って滝夜叉丸と似てるのか?」

「はあ?何言ってるんですか?」


やっぱりってなんだ?名字先輩に言われたんだろうか、と思いつつも二人の先輩の共通点を考えてみたけど、僕には思いつかなかった。



(ふしぎなひと)

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