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同じだけの距離を進むのに片方は一歩、もう片方は二歩となってしまうのは、それぞれの歩幅が違うからだ。同年代の少女の中でも低めの身長である名前の歩幅は、それ程大きくない。
対して先を歩く竹谷は、名前より年上の男で、平均より高めの身長。身長が高い程足も長いわけで、二人が一緒に歩いていても距離が開いてしまうのは当然だ。

だが本来なら竹谷より遅れて歩くはずの名前は、一歩一歩を早めに踏み出して竹谷とそう距離を空けずに進んでいる。彼女をそうさせているのは自分の手を引く竹谷の手で、半ば無理矢理そうされたものだからその腕以外の身体が後からついてくるという体制で、歩きにくいことこの上ない。
親友である綾部と滝夜叉丸以外の異性に触れられている緊張もあり、繋がれた手を離してもらうため名前は思い切って声をかけた。


「あのっ……竹谷先輩!」


人見知りの名前はまだ竹谷に慣れていないが、勇気を振り絞って出した声はちゃんと彼に届いたらしい。振り向いた竹谷は続きを言い淀む名前の視線を追い、繋がれた自分達の手を見てそれを離した。


「お、悪いな。痛かったか?」

「いえ、大丈夫です…。」


暫し無言だったが、向かい合っているのにも関わらず、その性格からずっと俯いていた名前がふと顔を上げる。珍しく視線をあわせてくれた彼女を不思議に思った竹谷が首を傾げていると、名前は恐る恐る言葉を紡いでいった。


「あの…何で私を連れて来たんですか?」


悪戯されない為とはいえ、わざわざ部屋から連れ出した事を不思議に思っていたのだろう。だが名前にとって年上の異性と目を合わせ、言葉まで交わすというのは相当勇気がいるはずだ。竹谷を見上げる彼女の瞳は、不安に揺れているように見える。


「ああ。ほら名前って年上の男が苦手だったろ?あの部屋、三郎と勘右衛門で五年が二人もいたから、俺と兵助の時みたいに名前が辛い思いしてるんじゃないかと思ってさ。」

「それで、私を助けてくれたんですか?」

「そんな大袈裟なもんじゃないけどな。」


頭をかきながら照れ臭そうに笑う竹谷に、名前の表情も緊張が解けて柔らかいものになっていく。
本来ならば関わる必要の無い後輩であるのに、この面倒な性格を嫌悪しないどころか、こうして気にまでかけてくれる。まるで兄のようなそれは、自分がよく知る彼と似ていると思った。


「竹谷先輩って…滝君みたいです。」

「え、滝君って…」

「あ、四年生の平滝夜叉丸君です。」

「あ、ああうん。知ってるよ……(俺って滝夜叉丸に似てるのか!?)」


決して彼を馬鹿にしているわけではないが、滝夜叉丸といえば自分大好きの自惚れ屋で、話題のほとんどが自慢話というのがこの学園でよく挙げられる彼の特徴だ。
一方、先輩に対しては礼儀を弁えているという面もある為、年上である自分には失礼な態度を見せた事がないが、そもそも深く関わった事が無いのでそういう他の輩が語る事しか、彼の特徴が思い浮かばない。


(この流れだと顔とか成績が、ってわけじゃないだろうしな…)


やはりそれら以外のどこかが似ているという事なのだろうが、皆が語る滝夜叉丸の特徴はどれもあまり褒められたものではない。しかし名前はにこにこと本当に嬉しそうな笑顔で言うものだから、少なくとも彼女にとっては良い意味なのだろう。
そういえばいつぞや倒れた彼女を迎えに来ていたし、その時一緒に居た綾部が僕達は特別だと言っていた。では、彼女との距離が少し縮まったと思っていいのだろうか。
後輩の一年生二人が呼びに来るまでの僅かな時間、竹谷はそんなことで頭を悩ませていた。

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