めののめも | ナノ
▽0221 (05:55)
銀英伝

美しいものが好きな男主(記憶持ち)、ロイエンタールを口説く。


〇〇は滑らかな蜂蜜色を薄く溶かしたようなプラチナブロンドを柔らかく弛ませた。
ブルーとヴァイオレットの中間に位置する瞳は群青色の海に夕陽が落ちるような色をしている。
そんな叙情的な容姿を持つ男は、少々口が軽い。

「金目銀目、縁起が良いな」

〇〇は仄かに笑みながらロイエンタールの顔を覗き込んだ。
ロイエンタールは何事かと顎を引くが、機嫌良さそうな喜色を含んだ〇〇の声に動きを止める。

「縁起?」
「知らないか」
「……知らんな」

訝しげに眉を寄せたロイエンタールから身体を引き肩を竦めた〇〇はそこで気付く。不味い、うっかりとんでもない失言をした。藪蛇。
彼の瞳にまつわるトラウマを刺激してしまったかも知れない。ロイエンタールの金銀妖瞳は彼にとって縁起が良いどころか諸悪の根源である。

ロイエンタールはヘテロクロミアーー虹彩異色症ーーである。彼の場合、先天的なものではあるが、他に障害や疾患らしきものは見当たらない。寧ろロイエンタールは身体的にも優れているくらいだ。
ただ、当人が至って健康であっても、オッドアイ自体が病気である、と言う扱いになっていたのが〇〇の遠い記憶である。
アルビノーー先天性白皮症ーーでさえ無ければ、劣性遺伝子排除法に寄る排他も無かったのだろうか?
劣性遺伝子排除法が実質無効である現在はともかく、当時は……外見的異常ならば問題がなかったのだろうか。
そんな果てもない思考が脳内を占拠するが、ロイエンタールが自身の瞳を嫌う理由はそんなものではない。

〇〇は心中穏やかではないが、或いはロイエンタールも同じだろう。ただ、本来なら〇〇はそんな事を知る由もない筈なのだから、知らないふりを突き通すしか無かった。

「古の迷信だ。銅色に青色の瞳は縁起が良いと言う。理由は知らん」
「……私の右目は黒だが」
「そうか?まぁ此処は明るいし、近くで見たら黒とは思わなかった。悪いな」

最も、主に猫の話である。とは敢えて言わぬ、と言うよりも、明らかに言わなくて良いことだ。ここは口を噤んでおくのが利口である。しかしーー

「綺麗だな、ロイエンタール」

〇〇はロイエンタールの瞳を見つめたまま微笑んだ。
普段から美しいものが好きだと公言して憚らない〇〇である。己と同じような背格好の男の容姿を笑顔で褒めようが、つまらない羞恥など感じはしない。
無論ロイエンタールは違う。さして機嫌を損ねた訳ではなさそうなのが救いだが、嬉しくもないだろう。

「まさか初対面の男に口説かれるとはな……初対面の女なら何も不思議じゃないんだが。私の金銀妖瞳も遂に魔力を持ったか」
「それは重畳。古今東西、美しいものはその魅力の代わりに毒や棘があったり、魔性であったりするものだ」
「……卿は少々ご自分の言動を鑑みるべきだろうな」
「他意はない。悪かった。そんなに気味の悪いものを見る目をしないでくれ」

細められたロイエンタールの瞳から逃げるように、〇〇は静かに両手を上げたのだった。

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