昨夜から降り続いた雪は朝には辺り一面を白銀の世界に変えた。
休日と云うこともあってか、普段は上級生よりも遅く起床する下級生も声変わり前の高い声を目一杯に上げて楽しげに雪遊びをしている。

陽介も先程までは親友である四郎兵衛と雪だるまを作って遊んでいたのだが、四郎兵衛の前に爽快と現れた小平太により強制的に終了させられた。
傍らにはげっそりとした四年い組平滝夜叉丸、加え下級生二人の姿。四郎兵衛の助けを求める視線からそっと逃れた陽介は心の中で合掌した。

(悪く思うな四郎兵衛、ぼくには無理だ。)

左近や三郎次、久作は雪合戦による負傷で現在は医務室で治療を受けているため遊び相手も居ない。三人が戻って来るためその辺を散歩していよう、と陽介はぶらぶらとグラウンドや中庭を徘徊し、気付けば六年長屋の近くまで足を運ばせていた。
はっと意識を戻しキョロキョロと視線を動かせば見慣れぬ景色と下級生の長屋とは違い過ぎる空気に陽介は息を呑んだ。忍たまとして過ごして一年とちょっと。入学前と比べ危険な場所や空気には慣れたが忍たまとして過ごしてきた期間や経験がいかせん上級生とは違いすぎた。陽介が緊張するのも無理ではない。
首元に巻いたマフラーを巻き直しそそくさと踵を返す。早く上級生長屋から離れようと駆ければどんっと云う衝撃と共に上からからここ最近で聞きなれた声が聞こえた。

「っと、陽介か。どうしたんだ?慌てて。」
「え、あ、虎徹せんぱい…。」

蹌踉ける陽介の肩を掴み体を安定させたのは六年は組、生物委員会の国泰寺虎徹。
陽介の委員会直属の先輩である鉢屋三郎が彼の愚痴を溢していることから陽介自身も彼を苦手としていたが話してみれば思い描いていた人物とは百八十度違い、彼の人柄に惹かれ今では三郎と虎徹を仲良くさせよう作戦などと云うことを計画する程、陽介は虎徹に懐いていた。
虎徹の姿にはあ、と安堵の息を吐けば虎徹は不思議そうに首を傾げ陽介に質問を投げ掛けた。

「上級生の長屋に用でもあったか?」
「いえ…、ちょっと散歩していたらたまたま。」
「ははは!陽介らしいな。」

けたけたと可笑しそうに笑う虎徹に陽介はむう、と頬を膨らませる。先程まで、じんわりと浮かんでいた脂汗はすっかりと乾いている。
虎徹はすっと目を細め陽介へ視線を向けると安定している呼吸に口元を緩めがしがしと頭を撫でる。

「二年生のお前にはまだ怖かったんじゃないか?」
「そ、そんなことありません!少しだけ怖かったけど、直ぐに慣れます!」
「強がるなってー。」
「強がってなんかいません!」

声を上げ反論する陽介に、虎徹も声を上げて笑う。虎徹の足をぽかぽかと叩く陽介と笑いながらされるがままの虎徹。容姿こそまるで違うが兄弟にも思える空気を醸し出していた。
一頻り陽介を揶揄した虎徹は再び陽介の頭を撫でれば陽介の目線に合わせるように腰を下り、何時ものようににい、と口角を上げる。

「これから生物委員会で雪合戦するんだ。一緒に行かねぇか?」
「いいんですか…?」

虎徹の誘いに陽介は首を傾げながら返す。委員会での遊びに自身も混ざっていいのか。一年生は庄左ヱ門と彦四郎、竹谷は三郎経緯で顔見知りではあるが、果たして邪魔ではないだろうか。
まだ虎徹と離れたくはない、しかし委員会での集まりを邪魔したくはない。どうするべきかと悶々と悩んでいれば、虎徹は陽介に質問を投げ掛けた。

「俺たちと遊ぶのは嫌か?」

陽介はぶんぶんと首を振り問いかけを否定する。確かに一年生と三年生が居るのは少しばかり違和感があるが嫌いではないし、これから長い付き合いになる先輩と後輩だ。出来れば仲良くなりたいと云う考えもある。

「じゃあ決まりだ!早く行こうぜ!」
「え、あ、うわぁ!!」

陽介を軽々と持ち上げ自身の肩に置き、所謂肩車をした虎徹は陽介へ顔を向かせながら楽しげに笑った。

「人数は多いに越したことはないだろ?」

ぱちぱちと目を瞬かせた後に嬉しそうに笑い頷いた陽介を見て、虎徹は満足気に頷きながら足を進めて行った。
陽介を落とさぬように気を配りながらも陽介が頭巾を握り締めてくる感触に口元が緩む。

(あったけぇな。)

肩越しに伝わる暖かい体温。
あと少ししかこの小さな後輩と触れられる期間は無い。まだまだ守ってやらなければいけない存在。
少ししか時間がないのなら、せめて、自身がいる間は守ってやりたいものだ。




(先輩お鼻真っ赤ですね)
(さみぃからなぁ)
(…えい、)
(お?)
(ぼくの手、暖かいですか?)
(ははっ、あったけぇ!)
(えへへ、よかったです)








恋する少年の残響話 / かず様
のお宅の息子さん、国泰寺虎徹くんを御借りしました!


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