「孫兵の手足を切って口と目を縫い付けて耳を千切ったら孫兵は私から離れない?私以外を見ない?あの女に近付かない?」
「手足を切ったらなまえを抱き締めれないし口と目を縫ったら口吸いも出来ないし君を見ることも出来ない。耳を千切ったらなまえの可愛らしい声を聞くことが出来ない。見る見ない以前に目がないんじゃあなまえを見てやれないし僕は死んでしまう。」
「死んでもいいよ、孫兵が私以外を好きになるくらいなら私死んじゃう。ねぇだから一緒に死のう?赤信号、皆で渡れば怖くない、っとの一緒で皆で死ねば怖くないよ。じゅんこちゃんたちもみんな一緒に死んじゃおう?」
「嫌だよ、僕はまだなまえと体温を分かち合って生きたいしじゅんこたちだってまだ死なせれない。」
「なんで孫兵はそんなに我が儘言うの?孫兵が私を置いてあの女ばっかり構うからダメなんだよ?ねぇねぇ、なんで孫兵は私を置いてけぼりにしちゃうの?」
「ごめんよごめんよごめんよ、なまえを悲しませるつもりは無かったんだ。本当にごめんよ。」
「ごめんなさいで済んだら警察は要らないんだよ。でもねでもね、私は優しいし孫兵に心の底から恋をしてるから赦してあげる。もう私以外見ちゃダメだよ、私以外に触れたら私死んじゃうからね。」
「うん分かったよ、愛してるよなまえ。」
「孫兵だぁいすき。」


ある薄暗い倉庫の一角での会話を思いだし孫兵はぱちりと目を閉じ長い睫毛を震わせた。

自身の恋人であるなまえが常人よりも頭のネジが何本か入れ違っていると謂うことは元より理解していたが、先日のなまえはどうも普段より異常であった。
周りとしては異常であることが普通ななまえが更に異常になっていただけなのだが、孫兵は産まれて間もない頃より側に居たなまえの変化には人一倍敏感であるが故になまえの異常さに気が付いたのだ。

なまえは依存性が強く孫兵無しでは生きていけないと云うくらいに孫兵に依存しており、孫兵に嫌われるような事は一切しなかった。例えば孫兵の好きな動物はどんなに危なくても絶対に殺さないし、孫兵を虐めるような奴はこてんぱに遣っ付けるし、孫兵が止めろと言えば直ぐにピタリと止めてしまうくらいに、なまえは孫兵に従順に依存していた。

しかし以前は無理に孫兵を押し倒し冒頭であったような言葉を続けた。
普段からのなまえでは徹底考えられないことである。

ゆるりと何気なく視線をグラウンドに向けると何時だったかもう忘れてしまったが、空から落ちてきた天女とか云う女が一年生と楽しげに笑っているではないか。

暢気なものだ、と孫兵は小さく呟いた。

そもそも、何故なまえがあのようになってしまったのか、孫兵はあまり心当たりが無かったのだが天女を見て漸く記憶の片隅の塵屑のような断片的な記憶を思い出した。

確かあれはなまえが実習に行っている間、学園長の思いつきで何故か孫兵が天女の世話を三日間焼かなくてならならなかった日があった。なまえが居ない日を狙ったかのような思いつきに深い溜め息を吐いたがもし上手く出来れば生物委員会の予算を上げてくれると云うことだったので、孫兵は精一杯天女の世話を焼いた。生物委員会の予算を上げると云うことは普段ならば不可能で、このチャンスを逃せば孫兵の愛する毒虫等と云った動物にご飯をあげれなくってしまう可能性だって無いとは言い切れない。元から予算が少なく悩んでいたし、動物たちとほんのちょっぴり何時も頑張っている竹谷先輩のため、孫兵は頑張っていた。

恐らくと云うか絶対に、それが裏目に出たのだと理解するのに時間はかからなかった。

「…嫌いではないけど、なまえが悲しむからあの人は要らない。」

そう言えば一つ上の先輩があの人を消してしまおうかと言っているのを思い出す。
あまり得意ではなく、寧ろ苦手に部類される先輩ではあるがあの人を消すために時間を割くのは勿体ないし、なまえが不安なってしまう。取り敢えずあの先輩に何か手伝うことはないかと聞き無いのであればあの人を一刻も早く消すお願いしよう。

嫌いでは、ない。
そして好きでもない。
基本的になまえと毒虫と友人以外に興味はあまり無いのだ。

「…少しくらいなら、同情してあげますよ。」





ほんの些細な、そんなこと


「ねぇねぇ孫兵、じゅんこちゃんが居ないね。」
「きっと散歩にでも行っているんだよ。」
「そっかぁ。」

ふにゃりと笑う恋人の頬に触れると彼は嬉しそうに目を細める。
ややつり目がちなそれは何だか猫のようで、孫兵もふにゃりと口許を緩めた。
じゅんこを使うのは凄く嫌だったけど、じゅんこは自分から行きたいと言っていたしこれからこの可愛らしくて少し可笑しい恋人が安心して笑えるのならばそれでもいいかと納得させた。
自身の出番が無いので今はここに居るが、あとで可愛い可愛いじゅんこを回収しに行かねばならない。多分あの人を噛むだろうから医務室に行って消毒してやらなければならないな。しかしどう言って消毒をしてもらおうか。以前は噛まれた人も連れて来いと言われたし…、ああ、そうだ、適当に山賊とでも言っておこう。そうすればあの不運委員会…、保健委員も許してくれる筈だ。

「孫兵、平和だねぇ。」
「そうだな。」

許せ天女様。
これも全て可愛い恋人のためなのだ。




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