文 | ナノ

僕の嘘できみが傷つく。そういうの、好きだな。


 一種の加虐趣味というものだろうか。僕は、彼女の泣き顔が好きだ。堪えて堪えて、そしてついに堪えきれずに涙を溢す彼女の姿を見ると、どうしても愛しくて堪らなくなる。
 だから僕は彼女に嘘をつく。
 嘘つき、なんていわれたって痛くもかゆくもない。だって本当のことだしね。だからほら、今も嘘をついた。

「君のそういう所、僕は嫌いだよ」
 嘘、本当は嫌いなとこなんてひとつもないんだけど。その言葉を受けて彼女はえらく傷ついた顔をしている。

「わたしに悪い所があれば、出来る限り直します。貴方が好きだから」
 震えた声、涙を見せまいとする気丈に振る舞う姿。ぞくぞくするね。僕の中にある征服欲が満たされていくのがよくわかる。
 笑顔も嫌いじゃないけど、僕に傷つけられた彼女を見るのはもっと好きだ。もっとも大前提として、此の世界で、彼女を傷つけていいのは僕だけだけど。
 彼女を傷つけることで、彼女の愛を計る。僕にはこの方法が一番しっくりきてしまうんだよね。

「嘘だよ、まったくお子様はすぐにダマされるんだから」

「うそ…?酷いです!」

「ごめんね、月子ちゃん。」

 あいしてるよ

 耳元で愛を囁けば、顔を真っ赤にして僕を睨みつける彼女。怒った顔もイイね。
 こうやっていつもはぐらかしては、また彼女を泣かせてしまうけど、やっぱりこれはやめられそうにないみたいだ。いつか愛想つかされちゃうかな?まあ僕から離れるなんて許さないけどね。
 そう思いながら、僕は彼女を抱き寄せた。



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加虐心を止められない郁さん
title by 確かに恋だった

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