出会い V
人手がありそうな寮に続く道を避け、裏庭を突っ切って林に続く道を走る。
周りは完全に森。学園の敷地内にこんな場所があっていいのかと疑うほどだ。
「ッ、は、ここまでくれば、もう、大丈夫だろ···!」
─────にしても、ここはどこだ。
周りが完全に森のせいで位置感覚が全く掴めない。ていうかここ本当に学校?知らない間に出てないよね?大丈夫?
キョロキョロと周りを見渡していると、後ろで何かが動く音が聞こえ、咄嗟に身を屈める。
な、なんだ···も、もしかして花ノ下か?いや、流石にこんな所まではこないだろ···え、じゃあなに??兎とか熊とか??
「ア゛ーーッ!!!」
────突然、当たりに地鳴りのような声が響いた。
熊か?熊なのか?熊って死んだフリで大丈夫なんだっけ。ああもうこの学校やだ家帰りたい。モジャ毛宇宙人も熊もいない実家に帰りたい。
「コロスコロスコロスコロス····」
己の不遇を嘆きつつ息を潜めていると、こんどは呪文のような声が聞こえてきた。
──えっ、俺死ぬの?つうか殺されるの?いっいやダメだ...!俺は魔法少女るるみるの最終回を見るまではまだしねないんだ···!!
「大体何なんだアイツらも一応役員って自覚を持ちやがれクソが!いやそれはクソに失礼だな。アイツらは田んぼの肥しほどの価値もないもんな!ハハハハハ!····あー····うぜぇ」
どうやら殺意の対象は俺じゃなくて“アイツら”とやららしい。
ワーーイ!やったねるるみる!俺生きれるよ!最終回まで見れるよ!
「つーか親衛隊の奴らも俺のこと心配してるなら頼むから何もすんなよ!アイツらが俺を心配して生徒会室に来る度に俺がセックスしてるとか思われるから!なんだよこの学校の新聞部員は俺のストーカーか?!···この際廃止してやろうか。いや闇討ちもありだな」
うわあ···これはもう新聞部死んだな。南無三。
チーンと言う音が頭の中で鳴り、静かに顔の前で手を合わせる。
「───にしてもあのクソ転入生もいい加減にしろよブチ殺すぞ!なぁにが「どうした?!元気出せよ!!」だバーーカ!!俺のストレスの根源はオメエだっつーの!!ハゲ!!そのクソむさくるしいズラ外したろかダボ!!」
転入生という単語に体が跳ねる。
一瞬俺のことかと思ったが、ここに来て人に迷惑をかけること(しかも殺意を向けられるようなこと)はしていないのできっと花ノ下の事だろう。
俺と同じく花ノ下に苦労させられているらしい声の主に少しだけ興味が湧き、草陰からすこだけ顔を出しと相手の顔を覗き見た。
「マジか····──」
誰もが息を呑むような美しい黄金色の髪、空と海をそのまま詰め込んだような澄んだ青色の瞳、こんなやつ2人もいてたまるか。
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