再来 U




厨房でせっせと働くシェフっぽい人に食券を渡して、丁度真ん中あたりのテーブルに座る。


「あ、そういえばさあ、ここってコンビニとかないのか?」
「あーっと、寮の方にスーパーがあるよ。まあ全く使われてないけどね」
「まじで?!···もう俺そこでインスタント生活しようかな」
「ここのボンボンは自炊とは関係の無い次元に住んでるからな。庶民層はスーパーで自炊してる奴ら多いみたいだぜ」


ま、俺はどちらかと言うとボンボン組だからなぁーと言って笑う高見くん。
うん。金持ちでもカード無くしたら一文無しも同じだろうが。ていうか金持ちなら俺にたからないで欲しい。切実に。


「···ん?あれ誰?」
「え?どれ?」


ふと見上げて目に入った人物に、何故か酷く目を惹かれた。そこには、食堂の端で、スウェット姿で羽織っているパーカーのフードを深々と被りパソコンに向かって一心不乱にキーボードを打ち込む男の姿。

足は上下に揺れていて、不機嫌を思いっきり態度に出してるような感じ。···なんというか、とても近寄り難い雰囲気を醸し出している。


「えー俺知らね、広海くんはなんか知ってる?」
「···いや、俺も知らない」
「食事中までパソコンいじって、よっぽど好きなんだろうなー」


高見くんはどうでもよさそうにそう言うと、運ばれてきた料理をお礼を言って受け取って食べ始める。

···多分だけど、あれは好きでパソコンいじってる時の態度じゃない。
例えるなら、そうだな、俺ができもしないExcelで美化委員の嫌々書類を作ってる時の態度に似ている気がする。


「ご苦労さまだなあ」


なんとなくそう呟くと、今まで有り得ないスピードで動いてた男の手がピタリと止まった。
どうしたんだろうか、と顔を上げて男の顔を見ると、メガネ越しに男と目が合った。一瞬見て取れた男の目は、まるで初めて水に触れた赤子のように驚きに染まっていた。


「チキンライスお持ちしました」


呆気に取られていると、ウェイターに声をかけられる。そこでハッと我に帰りウェイターからチキンライスを受け取り礼を言う。

もう1度男の方を見ると、男はまた淡々とキーボードを打ち込んでいた。が、突然男の隣にあったスマホが震えた。男はスマホに目をつむけ大きく溜息をついた後、まだ残ったままの食器を置いたままパソコンを持ち食堂をあとにした。


「なんだ、アイツ」
「さあ。そんなことより早く食べて。急がないとアイツらが、」


よこでハンバーグをもそもそと頬張る広海。俺に視線をよこしながらそこまで言った瞬間。突然、食堂のドアが大きな音を上げ開いた。



「あーーーーッ!!!!」



またあの耳をつんざくような声が食堂に響いた。





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