「”巷で噂の盗賊、ついに殺される”はは、ねぇちょっとこれ見てよ」

その言葉で広間にいたフィンクス、マチがシャルナークの側に集まりパソコンの文字を目で追う。


「”誰も捕らえることのできなかった月兎、三日月のよるに殺される”だ?」

「なんだいこの記事、こんなの嘘っぱちじゃないか」

フィンクスとマチが眉間に皺を寄せた所で広間の扉が開いて当人が現れた。


「あり?何喧嘩してるの?」

「ちょうどよかった、カグヤ見てよこの記事」

内容は怪盗月兎、実録冷酷な悪魔、殺し屋からの盗賊、などと事実だったり嘘だったり様々な事が書かれていたが要約すると何者かに襲われて殺されたらしい。


「はは、しかもこれ僕を殺したの幻影旅団だって、笑えるネ」

口角だけニィッと上げ笑うカグヤを見てマチは呆れたように溜息をついた。

「あんた、仮にも世間では殺されたってなってんのに」

「好都合だヨ」

「え?」

「僕は居場所を捨ててきた人間だからね、これで僕が何処かで生きてるなんて誰も思わないし」

「それでいいのかい?良くしてもらってたんだろ?」

マチの言葉に一瞬瞳が揺れるがすぐにへらりと笑って脳裏に浮かぶ銀髪の猫目の彼を消した。自分に甘さは不要だと。



「…心残りがないって言ったら嘘になるけど、僕はこっちの道を選んだからネ」

「でも、」

「それよりさ、カグヤはなんで月兎って呼ばれてるわけ?」


何か言いたげなマチを遮りシャルナークがクルリと振り向き不思議そうに首をかしげる。


「さぁ?僕は自分から名乗ったことはないヨ。気がついたらそう呼ばれてたからね」


「それってさ”誰が”最初に呼び始めたの?」


「え…?」

「だってさ、月兎の月はわかるよ?カグヤは月色だし。兎はどこから?」

「僕は…夜兎だから、」

「なんでそれをこっちの世界の人間が知ってるの?」

ドクンッと止まっていた心臓が激しく動き始めた。まるで血の気が引くように頭はクラクラしてるのに全身に煮えたぎるこの熱いモノはなんだ?


どうして僕は、今までそのことに気がつかなかった?





夜の兎は月色兎
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