蜘蛛のアジトから少し離れた街にある、知ってる人しか知らない小さなバー。少し暗い店内に音楽だけが響く。 「それで、わざわざこんなとこに呼び出したのはなんでかな?」 カグヤは来てから何も言わないヒソカに問いかける、原因はわかってる、自分が勝手に蜘蛛に入ったからだ。 「わからないのかい?」 奇術師の格好をしていない素の顔のヒソカの切れ長の瞳が真っ直ぐカグヤを見つめる、カグヤはヒソカから目を逸らして黙ったままグラスの中身を飲み干した。 「キミはどうしてクロロのモノになったんだい?」 「…それは誤解があるよ」 「ボクも最初は目を疑ったよあれだけ嫌悪していたクロロのモノになってフェイタン達共仲良くしているんだから」 「だから僕は、」 「わかってるよ本物の団長に会うために自分をクロロに売ったんだろ?」 「違う!僕は、そんなつもりで蜘蛛に入ったわけじゃない」 「じゃあ、なんで?」 「…この三年間、僕は必死で元の世界に戻れる方法を探した。ゾルディックに飼われてからも夜は抜け出して毎晩毎晩少しでも近い情報があれば探しにいった、それでも…」 「帰る方法は見つからなかったんだろ?」 「…そう、どんなに血を浴びても力を手に入れても…僕はずっと渇いたままだった、絶望したよ。闇の中に一人落とされた気分だったネ」 ヒソカはカグヤが蜘蛛に入る前の姿を思い出した。もともと華奢な体は痩せて折れそうに細く、瞳もいつだってここにあらず。イルミも心配していたがヒソカももちろん心配していた。 「団長は僕の全てだよ、団長がいないと息もできないほど…」 寂しい、と小さく悲痛な声が聞こえた。普段気丈なカグヤの珍しい弱音だった。 「ならどうして蜘蛛に?」 「団長だけが団長に会うための方法を見つけてくれたからだよ」 カグヤの輝く月色が今度は真っ直ぐにヒソカを見つめる。無自覚だろうが柔らかい笑みを浮かべていた。 「やり方はアレだけどね、団長は僕を元の世界に帰してくれた。暗闇に光が見えたような気がしたよ、本当に僕は…救われたんだ」 ヒソカは何も言わずただ揺れる月色の瞳だけを眺めていた。蜘蛛に入って少し元のカグヤの姿に戻った。それだけでも喜ぶべきなのかもしれない。 「…不思議だね、あんなに殺したかったのにこうして団長と団員としていると落ち着くんだ」 カグヤは皮肉っぽく笑う。 「僕を怒る?」 「まさか誰も…誰もキミを責めたりなんてできないよ」 「裏切られたとは思わない?」 「全然だって現にキミはこうしてちゃんと説明してくれたじゃないか」 ヒソカの言葉に少しだけカグヤの心が軽くなった気がした。ゾルディックから逃げ出した、キルアを置いていったことがカグヤの良心を痛め付けていた。 「でも今度からはボクにも言ってねボクはキミの番犬なんだから」 「わかったよ、心配させて悪かったね」 ヒソカはそっとカグヤの手を取り手の甲に唇を落とす。カグヤは拒否することなくそれを受け入れ、それはまるで映画のワンシーンのような光景だった。 「例え世界を敵に回してもボクはキミを守るよ」 「心強い番犬だね」 二人は笑い合うとまた酒を飲み交わす。 居場所は此処にもあったのだと確認し、カグヤは少し嬉しそうに笑った。 そんなに器用じゃないから prev / next top ×
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