教えてあげる、あのね
ハーマイオニー・グレンジャーは入学して最も憂鬱な朝を迎えた。
昨日図書室で起きたことは夢ではないらしく、仕上げるはずだったレポートもお気に入りの羽根ペンも何もかも彼女の手元にはなかった。
「珍しいね、ハーマイオニーがあの羽根ペン使ってないなんて」
急いでレポートを書き上げるハーマイオニーの横でロンがのほほんとお菓子を食べながら彼女に話しかけた。
「…色々あったの、それよりレポートは終わらせたの?」
目をそらすロンとハリーにハーマイオニーの眉間の皺が濃くなり、2人は慌てて言い訳するように昨日あったことを述べた。
「マルフォイの奴に邪魔されたんだ、あいつ、本当に僕達の行くとこ行くとこに現れて、」
「僕がなんだって?ウィーズリー」
「げっ」とロンが嫌そうに振り返るとそこには腕を組んで意地悪な笑みを浮かべたマルフォイが仁王立ちしてこちらを見下していた、その横に涼しげな表情をしたウェルも立ち、こちらを見ている。
昨日の出来事を思い出し、どくん、とハーマイオニーの心臓は煩く鳴り出す。
が、ウェルは昨日とは違い冷たい瞳で宙を眺めている。
あんなにキラキラしていた銀の瞳は氷のように恐ろしく冷たく感じた。
「僕が手伝ってやったレポートは完成したか?」
「手伝って?邪魔したの間違いだろ!ハリーの羊皮紙をめちゃくちゃにして!」
「ポッターが羊皮紙を貸さなかったのが悪い」
ふんっと馬鹿にするように笑ったマルフォイはウェルを見つめるハーマイオニーに気付いたのか眉を顰めて汚物を見るような表情で口を開いた。
「ウェルを見つめるなグレンジャー、そんなに純血が珍しいか?」
マルフォイの言葉に思わず彼女は真っ赤になり、その反応を喜んだマルフォイは楽しそうに毒を吐いた。
「キミが逆立ちしてもなれない純血だもんな、おっと、だからって見ないでくれよ、穢れた血に見つめられたらそれだけで最悪の気分になるんだ」
そうだろウェルと続いた言葉に彼は「そうだな」とだけ返事をしてドラコと一緒にスリザリンテーブルへと戻った。
先程まであんなに熱かった胸が冷たくなるのを感じた、まるで彼の瞳のようだ。
*
やはり昨日のは何かの間違いだったのだ。
昼間のことを思い出しながらハーマイオニーは図書室の扉を開けた。
今日はきっと彼はいないはずだ、彼女は急いでいつもの席に行くと思わず「なんで」と口から溢れた。
「やぁ、こんにちは」
キラキラとした銀色はハーマイオニーに気付くとひらひらと手を振る。
その手には彼女のお気に入りの羽根ペンが握られていた。
「そ、それっ!」
「昨日忘れていったから、預かっておいたんだ」
「返して」
「勿論。とりあえず座りなよ」
「嫌よ。誰が貴方となんかと座るもんですか」
彼女の言葉に彼はキョトンと心底不思議そうに瞳を丸くさせた。
「なんで?」
「なんでって、貴方…っ」
昼間何をしたかわかってるの?
彼女はその言葉を言いたかったがそれを言ってしまえば自分がそのことを気にしてると思われるのではないかと言葉を飲み込んでしまった。
「もしかして、昼間のこと?」
銀色の瞳は彼女を覗き込むように首を傾げ、少し間を空けて「ごめんね」と謝った。
その言葉に彼女は心底驚いたように目を見開きウェルを凝視する。
今目の前の男は自分に謝罪をしたのか?
もしかして空耳ではないのか?
スリザリン生が、自分に謝ることなんてあるのか?
ぐるぐると考えに考えた結果ハーマイオニーはガタンと椅子を引いて彼の迎えに座った。
「貴方、何なの?」
その言葉に彼は楽しそうに微笑んだ。
教えてあげる、あのね
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