俺、夏風邪。


ーー…カランコローン

「いらっしゃいませ!あ!フィンクスさん!」

俺と顔があった瞬間、シュリさんは笑顔でこっちに小走りでくる。
うおおお、今日も眩しいっつーか、可愛らしい笑顔だ。


「こんにちは」
「お、おう」
「今日はどうされたんですか?」

ニコニコしながら俺の顔を伺うシュリさんはまるで天使だ。


「は、…花を」
「あ、ふふ。そうですよね、お花屋さんにくるんですから、お花を買いにきますよね、バカな私」

あなたの笑顔が見たくて来ましたなんて言えねぇ。


「花束、つくってくれるか?」
「花束ですね、どんなイメージですか?」
「はい、渡される方でしたり、こういう色合いの花束をっていうイメージです」
「っ…あーー…」

そもそも贈る相手なんてしねぇしなぁ。
贈るならシュリさんに贈りてぇが。

「なんつぅか…こう…ふわふわーってしてて、色は…ピンク?とか黄色だな」
「ふわふわーっですね、任せて下さい」

シュリさんはそういうとふわふわーっと呟きながら花を取りに行く。ピンクの花や黄色の花、それから白いツブツブした花。シュリさんの手によって可愛らしくどんどん花束になっていく。

花束を造ってもらってる間俺は何をするのでもなくただボーッとシュリさんを眺めてた。

シュリさんの髪は茶と金を混ぜたような優しい色だ。瞳も、同じ色。蜂蜜?みてーだな。
ふわふわした髪をいつもピンクの布みてーので纏めてて、後ろで縛ってる。

花屋のせいかいつも泥があちこちについてる、色が白いせいかそれが目立つ。

目なんかクリクリしてて、小動物みてーだ。

って俺は何を考えてる!変態か!
くそっ。

「フィンクスさん、できましたよ」

バチッと目が合い慌てて顔を逸らす。

「お、う」
「?どうしたんですか、お顔が真っ赤ですよ?」
シュリさんは俺の側にきて下から覗き込むように見上げる。
ドクドクと俺の心臓が鳴りだす。まただ!何なんだちくしょう!!

「フィンクスさん、しゃがんで下さい」
「あ?こ、こうか…?」

シュリさんの目線に合わせるように膝を屈めるとピトリと俺の額にシュリさんは自分の額をくっつけた。

「〜〜〜〜〜ッ!!!」
「やっぱり少し熱いですね」

言葉にならない想いがブワッと俺から溢れ出す。可能なら抱き締めてしまいたい。駄目だそんなことをしたら俺は変質者の名を受けてしまう。
そうしたらもう二度とこうやってピトリってしてくんねーかもしれねぇ。

俺は昂ぶる気持ちを必死に誤魔化す。
フェイタンに食われた俺のプリン、団長にパシられて買いにいく真夜中のプリン、マチに捨てられた俺のコレクション、ウヴォーとノブナガに呑まれた俺の酒。

過去の悔しい思いを必死に脳内で駆け巡らせることにより何とか正気を保つことができた。


「フィンクスさん?」
「な、夏風邪だ!!」
「夏…?」
「うつしたら悪いからもう帰る、いくらだ」
「あ、今計算しますね」

シュリさんに言われた数字の金を財布から出してシュリさんに渡す。

「ありがとうございました、また来てくださいね」
「お、おう!」

赤くなる顔を隠すように俺は足速に店を去った。


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