今日は雨だ。
スリザリンの談話室は地下にあるため、寒くて暗い。
そのせいか朝から気分が鬱蒼としている。
キーキー声で話し掛けて来るパーキンソンも、隣でお菓子を食べこぼすクラッブとゴイルも
すべてが煩わしい。
せめて外の空気を吸うため談話室から出て廊下を歩いていると後ろから声を掛けられた。
「ドラコ」
銀鈴を鳴らしたような澄んだ声が僕の名前を呼ぶ。
「姉上」
振り返れば豊かな髪を靡かせて姉上は走って僕を抱き締めた。
ふわりと甘い香りが僕の鼻腔を擽る。
先程まで立ち込めていた苛立ちは無くなり自然と頬が緩んだ。
「ふふ、久しぶり。なかなか会えなくて寂しかったわ」
甘く、透明感のある笑みを浮かべる姉上は女神のように美しい。
「僕もです。それに…話し掛けようとしても姉上はいつもウィーズリーの側にいるので…」
僕が入学した時にはもう遅かった。
大好きな姉上の周りには忌々しいウィーズリーの双子がはびこっていた。
「あら、遠慮する事ないのよ?ドラコは私の弟だもの。フレッドとジョージも理解してくれてるわ」
「…僕はあまり姉上の交友関係に口出しするつもりはありませんが、ウィーズリーと親しい事を父上はきっとよく思いません」
僕の言葉に姉上は悲しそうに形のいい眉を下げる。
やってしまった。
姉上のこんな表情が見たい訳じゃない。
「……僕はウィーズリーが嫌いです。でも、ウィーズリーの側にいる時の姉上の笑顔は好きです」
姉上は困ったように笑い、優しく僕の頭を撫でた。
「ドラコ、ありがとう。でもね、私、フレッドとジョージがいないと息が出来ないの」
どうしてこの美しい姉上があんな薄汚いウィーズリーに執着するんだ?
理解出来ない。
「今度ホグズミードに行くの。ドラコ何か欲しい物あるかしら?」
「いえ…僕は、特に」
「ならハニーデュークスでお菓子を見てくるわね、ドラコは私と好みが似てるから」
ホグズミード、か。
姉上は誰と行くのだろう。
…ウィーズリーか。
「姉上はウィーズリーの双子と行くんですか?」
僕の問い掛けに姉上は複雑そうに笑った。
「いいえ、違う人と行くわ」
その言葉に僕の胸はスッと晴れる。
ざまぁみろ、ウィーズリー。
「そうですか、気をつけて行って下さい」
「えぇ、ところでドラコは何処へ行くつもりだったの?呼び止めてしまったけれど…」
「あぇ、ただの散歩です。談話室に籠もっていると気が滅入るので」
姉上はにこりと微笑んで僕と腕を組み、歩き出した。
「せっかくだもの。久しぶりに姉弟だけで散歩しましょう?付き合ってくれる?」
「もちろんです。喜んで」
訂正しよう。
今日は素晴らしい日だ。
久しぶりに大好きな姉上を独占出来る。
遠くでポッター達が僕等を見つけたらしく騒いでいるが、姉上は気付いていない。
「姉上、西の塔に登ってみましょう」
さりげなく奴らから姉上を遠ざける。
邪魔されてなるものか。
僕だけの女神
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