彼女の秘密



『今は昔、猫と交ざりし人の形をした種族が繁栄していた。』

『異種達は猫の身体能力を持ち、人の言語を話した。異種達は成体に近付くと猫の姿は消え、人そのものになる。』

『しかし身体能力は変わらず、異種と人を見分けるには暗闇で、瞳を見ればいい。異種の瞳は暗闇でも光を放つ。異種は老いる事なくその若々しい姿のままに息絶えていった。』

『人に化けた猫が猫に戻る時は感情の高ぶりである』

『その珍妙な異種は人から好かれ、やがて高値で売り買いされる。そして異種狩りが流行る。それを危惧し異種は山の奥深くに身を隠した。そして二度と人の里に下りる事は無かった』


「ふむ…」

「団長、まだ起きてたの?」

「この文献は興味深い。古代文字で書かれてるため翻訳に手間取るがベリル族の全てが書かれている」

「へぇ、で?なんかわかったのかい?」

「アネモネはもう少ししたら成長が止まる。今は10歳ぐらいか?たぶん人間だと15、6歳の容貌だろう。アネモネは永遠にその姿のままだ」

「結局俺より団長が調べたんじゃないか」

「怒るな、シャルの資料のお陰だ」


するとアネモネの愚図り声が聞こえて来た。


「団長、アネモネ泣いてるよ」

「起きて隣に俺がいなかったからだろう。今行く」



手放しはしない。

逃がさない。

もう、キミは蜘蛛の宝なのだから。



蜘蛛の糸に絡まった子猫は哀れか、


ー…それとも


「クロ、ロ」

「勝手にいなくなって悪かった。怖かっただろう。おいで」

差し出された腕に抱き付き、アネモネはクロロの腕の中で再び眠りに落ちた。



「中身はまだまだ子供だな」


クロロは無意識に嬉しそうに笑った。


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