数ヵ月後、イルミ様の花婿衣装を前に私の緊張は張り詰めていた。


「顔強張ってるけど、大丈夫?」

白いタキシードに身を包んだイルミ様が私をのぞき込んでくる。

「お許しください、イルミ様。あまりにイルミ様が美しすぎて…そんなイルミ様を私のような者が伴侶に頂ける…己の幸運に浮かれているのです」


リアは白薔薇のブーケを片手に、純白のドレスに身を包んで俺を見上げてきた。
瞳を瞬かせ、褐色の頬を朱色に染める。他の男には絶対に見せないだろうその愛らしさが、堪らない。
やっと俺のモノだ。
口元が緩んでしまうのは、リアの責任だ。

「…………リアは時々、歯が浮くようなことを言うよね」

そっぽを向いた横顔。サファイアの耳飾りを飾った耳の端まで、褐色の肌がほんのりと朱に染まっている。

「いけませんか?」

「ううん、とっても可愛い」

リアは目元を赤く染めながら伏し目がちにそう言って、白絹のグローブに包まれた手を差し出してくる。その手のひらを包み込みながら、俺は笑って返した。


二人並んで、結婚式が行われる式場へ向かいながら、俺は呟いた。

「リアが鈍くて大変だった」

「私は執事です、イルミ様に恋心を抱くなど本来あってはなりません」


一向にリアに動く気配がなかったので、俺としてはかなり追いつめられていた。

執事たちに相談し、リアをその気にさせる作戦を色々と考えた結果、入浴の場にリアを闖入させたのだ。

既成事実を作ってしまおう――という、よくよく考えれば、ちょっと恐ろしいような作戦が遂行されたという次第だ。

……相手が本命だからって、少し無謀だったかもしれない。



「ゴトーには眠れなかった三ヵ月を返せと責められましたが」

そうして、シルバ様が「早く孫を抱きたい」というお言葉も、私に向かってのことだったと判明した。

常々、身分にかかわりなく家族愛を尊重するシルバ様が、イルミ様の嫁に対して身分を問うたりするはずがなかった。

ゾルディック家の執事に身を置いていることで、私が周りに感化され、ゾルディック家に仕える執事としての立場を勝手に身分差の問題にすり替えてしまった。

結果、シルバ様の発言の際に行動を共にするゴトーが傍にいたことで、私としてはシルバ様からの命令だと勘違いしてしまったわけだから、同僚の責め句は聞き流すことにした。

「でも、これでめでたしめでたしだよね?」

俺が問いかければ、リアは軽やかな笑い声で応えた。

「――はい、私は世界で一番幸せな花嫁です」


幸せそうに微笑むリアに俺はそっとキスをした。


鋼の靴を履いたシンデレラ

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