午前二時、特別な夜の真ん中で。(1/2)




“君に幸せをあげたい この特別な夜に”

「なあなあ一織、どうしてクリスマスソングって恋愛の歌が多いのかな?」
 クリスマスも近くなったとある日、陸が突然言い出した。

“赤いリボンと星のカケラで
 飾ろう ふたりだけの素敵な夜を”

「はぁ?」
 出かける直前に何言い出すんですか、と一織が眉をしかめた。
 陸のスマートフォンからは、音楽番組の収録で一緒になるアーティストのクリスマスソングが流れている。今週出たばかりの新曲だ。
 今夜に迫った収録に向けて、そろそろ寮を出なければいけない、そんな時間だった。
「だってさ、クリスマスって本当は宗教の行事だし、アメリカだったら家族とか大勢の友達とかと過ごすのが定番じゃん。でもクリスマスの歌って、日本じゃ恋愛の歌ばっかりだなーって思ってさ」

 今夜収録する音楽番組のテーマはクリスマスソングだ。アイドルからヒップホップ、ガールズロックなどなど、多くのジャンルに属するタレントたちが歌う珠玉の歌が出揃う。予習のために、と一織や壮五が集めてきてくれたそれらの歌は、確かに恋愛をテーマにしたものが圧倒的に多かった。
「……それは、間違ってませんけど」
 よくアメリカのクリスマス事情なんてご存知ですね、と思った一織だが、それは口に出さない。話が逸れることが分かっているからだ。
「だろー? 子どもの時に歌ったクリスマスソングみたいな、もっとみんながわくわくするような歌があってもいいと思うんだけど」

 といって、陸が♪あわてんぼうの、と歌い始める。妙に彼自身に合った選曲だ。
 一織は陸のスマートフォンから流れていた曲を止めた。すると、陸の歌も一緒になって途切れる。
「あっ、別に止めなくてよかったのに」
「出かける時間だと言っているでしょう」
 はあ、と呆れを表情へ全面に出しながら、一織はスマートフォンを陸へ手渡す。そしてこう言った。

「需要が多いからでしょう、恋愛ソングが多いのは」
「へ?」
「自分から話振っておいてそんな顔しないでください。…とにかく、今の世の中で音楽を買うのは若い人たちが多い。というより、私たちのような人間がターゲットにしている層が若者たちでしょう。
 そういう人達が、神がどうだとかクリスマスにプレゼント貰えて嬉しいだとか、そんな歌に興味あると思います?」
 一織の回答を、陸は数秒ほど反芻して。
「……一織、情緒ない」
「はぁ?」
「でもそう言われると別に反対できない! なんかムカつく!」
 地団駄を踏む陸に向けて、一織はまたため息をつく。
「意味が分からないんですけど。……馬鹿なこと言ってないで、行きますよ」
 はあい、と陸は渋々返事した。
 芯から納得できたわけではないが、一織の現実的な回答以上の答えを陸には見つけられそうにない。
 仕方なく、陸は身支度を整え、一織のあとをついて寮を出たのだった。

 ――そんな話をしたのが、ちょうど1年前だ。
 その頃の陸にとって一織は同じグループのメンバーで、仕事仲間で、よき友人だった。
 けれど、この1年で二人の関係は大きく変化し。

 今年、陸はたったひとりの「特別な人」と過ごせる、初めてのクリスマスを迎えようとしていた。




[ 13/20 ]

[*prev] [next#]
[もどる]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -