主将は見た! 1/3

 とある日の放課後。
 誠凛高校男子バスケ部主将日向順平は、“カントク”の相田リコとマジバーガーで向かい合わせになっていた。

 何故いるかといえば、練習日程とメニューの組み立てのためである。
 いつもは部室でするのだが、今日はたまたまリコが『お腹空いたわ』と言ったので、じゃあついでに、ということでマジバーガーに来たのだ。

(……にしても、今二人なんだよなぁ)

 と、妙なことを頭の隅で考えていると。
「…向君、日向君? おーい」
「……ぁいてっ!」

 ―――頭を叩かれた。

「ちょっと、聞いてた?」
「え、あ!? …わ、悪い」
 慌てて脳を現実に引き戻すと、リコがため息をついた。
「で、何だって?」
「うん……まあ、どうでもいい話なんだけどね」

 何だよそれ。
 と言いかけたのを、日向はかろうじて留めた。
 リコがこういう性格なのは、自分が一番よく知っている。
 しかし、次に彼女が放った疑問は、日向が予測していたのとは遥かに違うベクトルを向いていた。

「火神君てよく黒子君の髪触るわよね、って言ったの」

 彼が文意を読み取るのに、数秒かかった。
「……そりゃまた、唐突な」
 火神大我と黒子テツヤは、彼らの後輩だ。だから話題に出ても何らおかしくはない。
 しかし、それにしても何でそんなことを。
「だって、唐突に思ったんだもの」
 思わずつきかけたため息を、日向は再び飲み込んだ。そして、自分なりに意見を言ってみる。
「チームメイトなんだし、それくらいのコミュニケーションは普通なんじゃないのか?」
「…うーん…それは、そうなんだけど」
 至極当然のことを言ったはずなのだが、リコは納得しがたい顔だ。
 眉間に皺を寄せたまま、彼女は言う。
「とりあえず、ちょっと1週間くらい見てみるといいわ」


 なんとなく、面白いから。


「……はぁ」
 いささか当惑したまま、日向は頷いた。




 そして、次の朝練がやってきた。
「集合ー!」
 主将の掛け声に、部員が皆集まってきた。最初のアップを終えて、全体練習が始まる。
 その際に、まず真っ先に確認しなければならないのは黒子の所在である。
 真面目な彼のことだから、練習に来ていないはずはないのだが、いかんせん影が薄すぎて分からないことが往々にしてあるのだ。

「ん、黒子はいるか?」
「いる…ですよ」

 どこかから、相変わらず下手くそな敬語が返事をしてきた。こんな話し方をするのは一人しかいない。
 ふ、とそちらを見遣ると、一際目立つ火神の大きな体の横に、確かに黒子が立っている。


 ―――あ、触ってる


 反射的に日向は思った。黒子の色素の薄い髪の上に、「いるよ」という言葉と同時に乗っけたらしい火神の手がある。
 しかし、それはすぐに少し眉をひそめた黒子本人の手によって払われた。

 それを見て、日向は我に返った。本来の責務を思い出し、名簿に目をやる。
「…おし、全員いるな」
 素早くチームメイトが全員揃っているのを確認すると、後ろで控えていたカントクがいつものように威勢よく号令をかけた。
「じゃあ、始めるわよ!」
 それに応えて、全員が一斉に声を張る。


「誠凛ー、ファイ、オオ!!」


 直ぐさま始まる練習に没頭するにつれて、日向の頭の中からは火神と黒子のコミュニケーションの事は消えていった。




[ 1/49 ]

[*prev] [next#]
[もどる]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -