一条の光 1/2



 その日、青峰は本当にたまたまそこを通りかかった。
 いつもなら目もくれないストリートコートに目をやったのは、そこに見たことのある人影があったからだ。

「…あいつら…」
 そのとき1 on 1をしていたのは、火神と黒子の二人だった。

 普通に考えたら、あの二人が勝負になるわけがない。だが、それでも二人は楽しそうだった。
 黒子に合わせて手加減しつつ、それでも不敵に笑って挑発する火神と、敵わなくともムキになって立ち向かう黒子と。
 力の差はあれど、二人は勝負することそのものを楽しんでいるように見える。


 それは、今の青峰には少し眩しすぎた。


 楽しいバスケ。
 それを忘れてから、どれほど経つだろう。
「……はっ」
 嘲笑が漏れる。今戦っている二人だって、少し前に自分が完膚なきまでに負かしたばかりじゃないか。

 所詮、弱い者同士が遊びに興じているだけだ。
 そう思ったとき、突然火神がこちらを振り向いた。はた、と目が合う。

 ―――げっ…

 当然、火神もこちらに気づいた。
「あーっ、テメッ青峰!!」
 言いながら、火神はずんずんと距離を縮めてくる。黒子も顔を上げて、目をほんのわずか見開いた。
「青峰君…?」

 ―――面倒臭いことになった。

 こうなっては青峰も引くに引けない。
 息を切らしつつこちらを睨んでくる火神に、口の端で嘲笑を浮かべてみせる。
「何だよ?」
 すると火神は、びしっとこちらを指差して、宣言した。

「いーか、次はぜってー負けねーからな! 冬、首洗って待ってろ!!」

 ―――何を、言い出すのかと思えば。
「できんのかよ、そんなこと?」
 火神とて、実力差を分かっていない訳ではあるまい。
 だから、皮肉を込めてそう言ったはずだった。しかし。

「できるかじゃなくて、やるんだよ。…その為に、強くなる!」

 一辺の迷いもなく、火神はそう言い切った。
 そして、そんな彼に影のように寄り添っていた黒子も。
「ボクも、キミに言いたいこと、たくさんあるんです。だから」


「ボクは、強くなります。そして、冬は―――絶対に、負けません」


 黒子の凛とした瞳が、あのとき、諦めるのだけは嫌だと語った瞳と重なった。

「――…」

 黒子の、火神の強い視線が、真っ直ぐ青峰に突き刺さる。
 既に、一度叩きのめした相手。だのに、二人の瞳には、確かな光があった。
 そんな視線から、青峰はふいと自分のものを反らし。

「やれるもんなら、やってみな」
 ただ一言そういって、青峰は二人に背を向けた。


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