眠り姫の居場所 1/2



 ことん、と、肩に軽く当たったものがある。
 首を捻ったら、あどけない寝顔とぶつかり、思わず溜め息が出てしまう。
 見慣れたそれは何度見ても可愛い、そう可愛いのだが。

(……動けねぇ……)

 顔を染めながら、火神は固まらざるを得なかった。




 黒子はとにかく寝る。本当によく寝る。
 授業中にうつらうつら、なんていうのはざらだし、学校帰りに寄るマジバーガーでもうっかりすると寝たまま数十分経過、ということもある。
 ひどいときは歩きながら寝かけて電柱にぶつかったりする。

 そしてそれは、貴重な休みに黒子が火神の家に遊びにやってきたときも例外ではなかった。


 肩の上ですうすうと寝息を立てる黒子を、火神は目の端で見遣る。
 今日はゆっくりしたいです、と黒子が言うから用意したDVDは、まだ映画を流している真っ最中だ。

 またかよ、と思う反面、仕方ねーよな、とも火神は思う。
 体力に自信のある自分でも悲鳴を上げたくなるバスケの練習量は、明らかに平均より体力のない黒子にしたら相当な負担だろう。
 だけど彼にとっても、自分にとっても『キセキの世代を倒して日本一になる』という目標がある以上、絶対に練習に手を抜く訳にはいかない。
 隙があれば寝てしまっているのは、そうした一生懸命さの代償だ。


 そんなことは、とっくに分かっている火神だが。
 やっぱり少し勿体ねー、と思わない訳ではない。

(こんなすぐ寝られたらイチャつくどころじゃねー!)

 そう胸中で叫びつつも、安らかに眠る黒子の姿を見ていると起こす気にもなれなかった。


 つん、と黒子の滑らかな頬をつついてみる。
 すると少し黒子はむずかる様子を見せるが、それっきり。起きそうな気配はまったくない。
 仕方なく、せめて何かかける物を取ろうと火神がごそごそ体を動かした。その時。

「…ん、」
「黒子?」
 起こしちまったか、と火神は動きを止めたが、そうではなかった。
 ただ、黒子が腕にしがみついてきた。まるで、離れたくないと言うかのように。

(ち、ちくしょう…可愛い…ッ!)

 無意識の行動に悶えつつ、火神はなんとか頭の後ろにあるシーツを引っ張って(二人はベッドにもたれて映画鑑賞をしていた)、黒子に被せてやったのだった。




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