24 確信



「あぁ、良いナイフだ。ベンズの後期型か」

見入る様な視線でナイフを見つめるシルバは何となく子供を想像させた。もう5人も子供が居るのに、可笑しな話である。

「フリーマーケットで売ってましてね。シルバさん、こういうのお好きでしょう」
「いくらで買った?」
「2000Jでしたね。ちょっと綺麗だから高めに売っちゃおうって感覚の。全くもって売主は阿呆です」

ベンズナイフは、大量殺人鬼のベンニー=ドロンが作ったナイフだ。彼が人を殺す度に記念に作ったナイフには殺された人間の怨念が詰まっていると何ともオカルトチックな話まであり、その数は見つかっている物だけでも288本・・・らしい。言うのはテルドは特にナイフなど、どれも同じだと判断していたからだ。当時から熱心な愛好家もいる為に隠れた名品とされているお宝品らしいが、やはりテルドにはその値段の意味が理解出来ない。だが、その輝きはシルバもゼノをも虜にした。

「2億で買おう。どうだ?」
「そーですねー・・・」
「冗談だ。真に受けるな」

ナイフの話になると、シルバは意地悪な子供の様になる。テルドは困った様に笑い、機嫌の良いシルバに進められた紅茶を苦い思いで啜った。舌が痺れるほどの効果がある毒を、出来ればテルドは飲みたくなかった。

「息子達が世話になった様だな」
「えぇ?・・・まぁ」

達。それから導き出される答えは、イルミとキルアの2人。どう答えていいか分からず苦笑いしていると、シルバがうっすらと微笑みながらベンズナイフを置いた。

「キルアに会いたいか?」
「え?」

勢い良く顔を上げたせいで、紅茶が零れそうになった。

「彼は閉じ込めているのでは?」
「あぁ。独房に入っている」
「そんな事をしたら、キルアを逃がしてしまうかもしれ」
「君なら安心できる」

最後まで言わせてください。困り顔のテルドに軽く笑い、シルバは鍵を差し出した。受け取れません。受け取れ。受け取れません。いいから。駄目ったら駄目です。そんなやり取りでテルドが断固首を振って拒否すると、ようやく諦めた様にシルバは息を着いて手を下した。その代わり、テーブルに置いたままのベンズナイフを差し出す。テルドは静かにそれを受け取った。

「やれやれ、君は強情だな」
「恐縮です」
「君のお母さんにそっくりだ」
「え?」

シルバは全てを見通した様に口元を歪めていた。ある意味、この人はパリストン以上にそこが知れない。悪人顔なパリストンよりも、よっぽど悪い顔をしている。テルドは背筋をゾクリとさせた。

「何か知ってらっしゃるんですか」
「あぁ。ターゲットだったからな。ある程度は事前に調べていた」
「貴方が殺害したのですか」
「残念ながら殺してはいない」

どういう事だ。あまりのじれったさにテルドは貧乏揺すりをする。

「逃げられた」
「はあ。それはそれは・・」
「あぁ、逃げられたのは最初で最後だな。もう20年も前の事だ」
「他に、何か覚えて居る事は・・・」

恐らく、当時の依頼主は彼の継母だろう。いくら頭の回転が遅いテルドでも分かった。継母は、父親と浮気相手の間で生まれたテルドを毛嫌いしていた。それはもう、ゴキブリ並みに。

テルドが母について知りたいと言ったら嘘になるし、知りたくないと言っても嘘になる。もっと明確に言えば、母親よりもテルドは自分について知りたかった。
緋の眼を見てから感じていたこの胸のざわめきを掻き消したかった。

「緋い色の瞳だったな」

あぁ、やっぱり。テルドは深い息を吐き出した。

「俺、やっぱり・・・」
「おや、不満だったか?」
「だって、母は殺される様な人間だったってわけでしょう」
「もっと知りたいか?彼女の事」

ソファーから立つテルドを引き留めた。引き留めずにはいられなかった。うっすらと緋色を交えた瞳が揺れていた。

「いいです」

うっすらと笑い、テルドはベンズナイフをシルバに差し出した。そして次に、金額欄が真っ白な小切手。笑顔でそれを差し出すテルドに、シルバは小さく笑って書き込んだ。

「もう、興味無いですから」




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