22 不快



「700億じゃあ無かったんですか」

試験終了後の監視官としての残業も有り、疲労が溜まっていたテルドにとって、彼を迎えに来たパリストンは最悪以外の何物でも無かった。だが、きっと車内で一言も口を利かず、険悪な雰囲気を漂わせていた2人に対し、専属運転手が最もストレスを感じていたであろう。2人を降ろす時、既に運転手は引きつった笑みを浮かべていた。

「ん。そうだけどね、君は頑張ってたみたいだから、それボーナス」
「・・・・」

小切手の最初の数字は、どう見ても7では無かった。何か企んでいるのでは無いかと疑ったが、パリストンは変わらぬ煌びやかな笑みを顔に張り付けている。一体、何百人の人間がこの笑みに騙されたのだろうか。そう思うと、テルドは気分が優れなかった。

「あぁそうですか。では遠慮なく」

奪い取る様に小切手を手に持ち、テルドはツカツカとあからさまな足音を立ててパリストンから離れた。暫く早歩きし、そしてブレーキをかける様にゆっくりと足を止めた。
小切手を見つめる。立派に装飾された長方形。そこに記された数字を数え、テルドはまだ嫌気がした。

「(差を見せつけたいのか)」

副会長と言えど、かなりの量の任務を熟さない限り、この金額は難しい。そう考えれば、パリストンは溝に捨てるほど金が有り余っていたという事だ。そんな一部の金額を渡される。溝と同じ様な扱いを受けたテルドは、屈辱に表情を歪ませその小切手を握り撫した。

「あ、ゲロさんこんにちは」

苛々任せに、見かけた細見の女性に近付く。話しかけられたゲルは足を止め、睨む様にテルドを見下ろしてから顔を背ける。

「そういうわざとらしいの、私は好きじゃないわ」
「嫌ですね、軽いジョークじゃないですか」
「そういうの、興味無いから」
「自分の知能の低さを言い訳しないでください」

お互いの鋭い視線がぶつかった。
テルドが苛々する時、手当たり次第に十二支んに対し暴言を吐いているのはゲルも知っていた。相手をパリストンと重ねながら容赦無く言うので、それをスルー出来ない協会内の人間も多い。ゲルもその1人だった。きっと、ピヨンやチードルなら対等に張り合えただろう。彼女達も連れれば良かったと、ゲルは後悔した。

「大体、アンタ達兄弟でしょ。何でそこまで仲が悪いのかしら。良い迷惑だわ」
「あんな男、兄でも何でもないです。ただでさえ上司だって事にムカついてんのに」
「あ、そ。私から見たら、アンタも鼠も同じだわ」

ゲルは一瞬にて指先から自身を蛇と化し、うっすらと開いた窓から体をぐるり抜けて外へ脱出した。テルドは暫くその様子を眺め、小さな舌打ちを着いた。
パリストンと彼が仲が良いはずが無かった。仲良くしようとも、お互い微塵に感じないそれはテルドが一番分かっている。

”たまには遊びにおいでよ”

不意に脳内で聞こえた声に、テルドは顔を上げた。
行ってもいいかと、何となく思った。携帯電話を開きイルミの電話番号を打つが、すぐに手を止めた。

「(・・・やめた)」

息を着き、電話を閉じる。
そして静かに窓を閉じ、厳重に鍵を閉めた。




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