人理修復に伴いカルデアに所属する英霊の数も増加する。
このところ立香側の英霊が増えたため、霊基再臨による英霊の強化が必要となった。
新たな特異点が見つかるまでは、霊格が落ち、弱体化した霊基を補強するために種火や素材を集めるのが禧緒や立香たちの日常だ。
そして修練場などにはクラス相性によってメンバーを変える。
久しぶりの休暇と言えば聞こえはいいが、マスターである禧緒に同行できなかったクー・フーリンとアルトリアの機嫌は余りよろしくない。
もともと人類の未来を語る資料館として造られたカルデアには娯楽が少ない。あったとしてもレフ・ライノールによる襲撃のおかげで常に省エネモードを強いられている。
英霊たちができることと言えばシュミレーションの模擬戦闘による手合わせくらいだ。カルデアの電力が自由に使えるならまだしも、現在は宝具禁止等と制約を付けなければトレーニングルームは使用できない。のびのびと武器が振るえるわけではないのでアサシン以外には若干不評だったりする。
丁度そのトレーニングルームで軽い手合わせをしていたクー・フーリンとアルトリア。獲物はお互い魔力武装したもので、本来の獲物ではない。マスターたちの訓練用の木刀に魔力を付与し、僅かな神秘を込めて行使する。ある種の強化魔術に近いが、強度と術の難度は跳ね上がる。
小柄な少女と青年に見えて、実際は人を超えた英雄だ。ただの木の棒では力もさほど入れない一撃で折れてしまうのでとても使えたものではない。アルトリアに至っては魔力放出も使っていなかった。

「暇だ」
「確かにな」

打ち合いからの追撃、反撃の応酬。そんなふうに繰り返すのもいい加減飽き飽きなのだ。アルトリアはまだしも、ケルトに名を馳せた大英雄クー・フーリン。こんなおままごとのような修練に身が入るはずもない。
はぁとため息を零して咥えた手巻き葉巻に火をつける。物資に乏しいこのカルデアでどこから仕入れたのかと思えば、視線に気づいたクー・フーリンはにぃやりと笑うだけだった。

「禧緒のヤツ早く帰って来ねぇかな」

長い髪が地面に触れるのも気にせず腰を落ち着ける。その姿が主人を待つ犬のように見えて仕方がないが、無用な怒りを買うほどアルトリアは愚かではない。ただ「そうだな」と相槌を打つ。

「お前さん、禧緒の事は諦めたのか?」
「諦める?」
「アーチャーの野郎とイイコトしたんだろう?」

さも愉快だと言わんばかりの笑みはアルトリアの琴線に触れる。
そこにあるのは侮蔑や嘲りではないが、人を肴に楽しもうとしているのは嫌でもわかる。しかし言われたことも事実なので怒りという感情にたどり着くまでのものではない。

「まぁな。シロウは私の鞘だ」
「シロウ?」
「ああ、貴様は知らんのか。いや、覚えていないのか」
「…平行世界ってやつか?」
「まぁ、そうだろう」

冬木で起きた聖杯戦争。しかし特異点Fではなく、ここではないどこか。未来か、過去か。どこにも属さない時間軸だったのか。
衛宮士郎と英霊エミヤがほぼ同一の存在であることを知るのは、おそらく聖杯の影響を強く受けたアルトリアぐらいなのかもしれない。

「シロウだかエミヤだかしらねぇが、テメェが手を引くってんなら俺も楽になるからな」
「手を引く?何を言っているのだキャスター」
「ああ?」
「シロウは我が鞘、そして禧緒は我が妻だ」
「へぇ?」

瞬間魔力武装の切っ先が目前に迫っていた。ランサーの頃に比べれば大きくランクダウンした俊敏値だが、その切っ先に乗せられた殺意は脅威である。直感のままに切っ先を弾き、槍の間合いから逃げるために距離を開ける。

「あれもこれもとはちと強欲が過ぎるぜ?」
「狗が、吠えていろ」

しばらく鋭く見つめ合い、ついには互いに武器を振りかぶった。


20170218 いきてるうちに殺したい