「あ」 昨日の雪男の分の生姜焼きがラップを掛けたまま残ったままなのを朝になって発見する。 塾か支部に泊まりだったのだろうか。忙しいみたいで帰れなさそうとはメールが有ったものの、まさか本当に帰ってこないとは思わなかった。 社畜リーマンならまだしも、雪男は15歳の学生なのだがと溜息が漏れる。 困ったものだと呆れと心配のもやもやとした塊を胸に残したまま、朝食の準備に取り掛かった。 通販で購入した保温が効くお弁当箱に完成した味噌汁をよそい、昼の弁当と、あとは軽くつまめるおにぎりを幾つか。鮭とおかかとツナマヨと。高菜かゆかりか迷ったのだが、海鮮づくしということでツナにしておく。水筒には熱いお茶を注いで雪男の弁当にメモを挟む。昨日メフィストさんに言われた定期検診の件だ。それと。 「無理はしすぎないこと。きちんと休むこと。それから、晩ゴハンなにがいい?」 メールでも済むのだが、メールでは顔を合わせず返事ができる。お弁当に入れたメモならお弁当を返すのに返ってくるはずだから、その時とっ捕まえて休ませられるだろう。後は学校で渡すが最悪下駄箱に入れるかだな。と満足したところで燐が起き出してきた。 すごい寝ぐせだと笑ってやりながら、朝食をテーブルに並べる。 今日も一日が始まる。 「いただきまぁす」 「いただきます!!」 *** 玄関先で示し合わせたように京都組と遭遇した。 燐の下駄箱にはファンシーな便箋が一通。ラブレターだっ!と叫ぶ志摩くんに急かされて差出人の名前を確認すると、そこにはメフィストよりとのかわいい丸文字で書かれていた。 「メフィストさん…字、かわいいね」 「あの人、こんな字で報告書とか出してるんですかねぇ」 「いや流石にそれはないやろ」 なんという斜め上からの衝撃に耐える私と三輪くんと勝呂くん。 手紙の内容は処刑保留の件ともう一つ何やら別件があるようだった。 「あ、まだ聞いてなかったの?」 「知ってたんかいな!!」 「いやもう直接聞いたと思って」 律儀にツッコミを入れる勝呂くんが朝から疲れたわ、と溜息をこぼした。 ごめんね、と笑いながら雪男の下駄箱を漁る。まだ上履きということは、支部の方に泊まったのだろう。お弁当を押し込んで燐たちの所に戻ろうとした瞬間、ひび割れたような悲鳴にあたりが騒然とした。 「醐醍院の声か!?」 「奥村くん!」 駆け出した燐を追って勝呂くんたちも続く。 人垣の真ん中で倒れた生徒に燐が駆け寄る。もうムリだよ、たすけて。と掠れた悲鳴の先には見たことのない悪魔だ。 「ねぇアレ、」 「悪魔、ですね」 「なんてやつや?」 「わかんない。写メっとこ」 ピローン、とマヌケなシャッター音が響いたのはご愛嬌だが調べるならわかりやすくなっていいだろう。 呼ばれた教員が到着して燐は生徒を保健室に運んでいく。 予鈴が鳴り三輪くんと別れて教室に移動する際に勝呂くんがなぁ、とぶっきらぼうな声で呼びかけてきた。 「なぁに?」 「奥村、大丈夫なんか?」 「んー?」 「あの醐醍院、悪魔が見えとる。あんなところで悪魔の尻尾だしやんや。気づかれるやろ」 「あっ、あー」 あのお馬鹿、と思わず唸ってしまう。 友達ができそうなんだ!と嬉しそうに語った昨晩の燐によかったね。と返したばかりた。 まさか見える相手とは思わなかったしそもそも人前で尻尾を出すななんて言わなくてもわかると思ってたのに。 「まぁ、うん。なるようにしかならないので」 「ほんま奥村のやつ。先生にもはなにも似とらへんな。なんで考えなしなんや」 「・・・」 「はな?」 思わず、振り返って勝呂くんを見上げる。 人の気も知らないで不思議そうに目を丸くする様は、どうやらまったく気にしていないのだろう。 これでは一人反応してしまったのが間抜けではないか。 「やばいちょっと呼び捨てヤバイ」 「なんでや?付き合っとる設定やろ?」 「不意打ちだったんだもん」 「顔赤いで」 「ぐぬぬ」 楽しそうに意地悪な笑みを浮かべる勝呂くんの脇腹に軽く拳をぶつけるが、存外硬い筋肉に阻まれて痛みを与えるどころか勝呂くんを笑わせることしかできないのだった。 ぼくに続きをください 20160128 tittle by is |