「みんな、一緒してもいい?」
「もちろんですや〜ん。ちゃんと蒼井さんのお弁当も確保してますで」

配給の弁当とお茶を掲げて迎え入れてくれる志摩くんからそれを受け取りそばに座る。
すこし後ろには制服姿のままの宝くんがいた。

「あれ?宝くんは水着着ないの?」
「お腹痛いんやって言うてましたよ」
「それ女子のプール見学の理由やん!」

三輪くんの説明に志摩くんが突っ込む。まぁ体調不良は仕方ないだろうとお弁当を頂く。燐たちも心配だが、英気を養わねば。いざと言う時お腹が空いて力が出ないなんて笑えない。

「出雲ちゃんもこっちきたら?」
「いやよ、三馬鹿とつるむなんて」
「誰が三馬鹿や!!」
「そっか、志摩くん視線がいやらしいもんね」
「それは否定できませんね」

くすくすと笑う三輪くんにおもわず吹き出す。蒼井さんひどーい!と志摩くんの非難が聞こえるが、無視しておいた。

『みんな聞けー!奥村ほか候補生二名は海神の接待にあたる。今夜は海神の動きがあるまで全員待機だ!』
「海神・・・?この海域に?」
「志摩くんの海神に感謝って、案外外れてないね」
「ええ?ただの勘なんですけど・・・ってゆうか言葉のあや?」

へらへらと笑う志摩くん。ひとまず今は三人の無事に安心する。

「でもクラーケンが寄ってこれないってことは結構大物の海神なのかな」
「せやろな。あのサイズ・・・結構強力な悪魔なはずや」
「でも沖合で船が沈められてるんだから、程度が知れてるわ」

フン、と鼻を鳴らす出雲ちゃん。完食したお弁当の片付けを始め、お茶を飲んでいる。

「お前ほんま失礼なやつやな。海神ゆうたら結構なもんやないか」
「力がないのに居座って、こっちの邪魔してるだけじゃない。弱い奴はさっさと退場すればいいのよ」
「お前・・・!」
「二人共喧嘩しないで」

今にも掴みかかりそうな勝呂くんを止めようとした瞬間、擘くような悲鳴が響く。

「しえみちゃん!?」

離れ小島からはクラーケンの触手がうごめいている。
海神よりもクラーケンの方が先に体勢を持ち直したようだ。

『総員!!戦闘準備!!』

シュラの号令とともに全員が火炎放射器を構える。
一方小島からは大きな巨大な影が現れた。

「鯨!?」
「ちゃう!海神や!!」

勢いよくクラーケンに飛びかかる海神。ここからは襲われていたしえみちゃんがどうなったのかわからない。無事を祈るしかないが、そんな暇も与えないくらい海神の攻撃が繰り出される。
巨大な口でクラーケンに噛み付く海神。その攻防で高波がビーチに津波のように襲い掛かる。クラーケンの悲鳴と墨のような血が海面に広がり、勝機が見えたと思った瞬間クラーケンの触手が海神の頭部を貫いた。
だらりと力を失った海神の肉体をクラーケンが浜辺へと投げて寄越す。撤退!!と響くシュラの声が嫌にシュールで、逃げる暇もなく浜辺に海神の体が打ち付けられた。

『手負いのクラーケンは逆に危険だ!擬態吐きは瀕死のクラーケンの断末魔的な習性で大量の擬態を作り出す・・・!本体以外は全て擬態だ!”眉間”を攻撃すれば簡単に消滅する!』

証明のようにシュラが擬態のクラーケンの額を切りつける。煙を吹き出し爆散したそれと同時に吸盤からは卵のような物体が発射された。

『候補生と下一級以下は”スキッド”掃除だ!』
「っだー!不浄王戦並みにメンドイ敵やん!」
「喋ってる暇があったら燃やして!!」

スキッドは単体自体対した攻撃力はないし火炎放射器で簡単に燃やせられる。しかしあまりに数が多い。

「志摩くん勝呂くんは私と前衛!出雲ちゃんと三輪くんは撃ち漏らしを駆除して!」
「なん!?お前怪我人やぞ!?」
「そんなこと言ってる場合じゃない!私のほうが射撃の腕は高いのよ!お説教する暇があったらスキッド祓う!」

叫びつつ火炎放射を打つ。円陣を組むように背中合わせにすれば、ひとまず死角は失われる。

「〜〜〜〜っ!!無理すんなよ!」
「勝呂くんもね」

なんでナチュラルに俺も前衛ですの?納得いかんわぁ。と溢れた志摩くんの愚痴を合図に、襲い掛かるスキッドたちにそれぞれが火炎放射器を構えた。


「おなかがすくとさみしくなるね」

20151115 tittle by まよい庭火