京都観光を楽しく終えて、とうとう京都遠征最終日。駅までのシャトルバスが到着し、虎屋旅館従業員総出で見送りをされる勝呂くんはまるでヤクザの跡取りみたいだと思ったのは心の底に止めておこう。

「はなちゃん!」
「あ、女将さん!色々お世話になってご迷惑おかけしました」
「なに言うてんの謝らんといて。こっちがお礼言わんなんくらいなんやさかい」

相変わらず明るい笑顔で背を叩いてくれる女将さんの溌剌さには救われる。と同時に、やはり、離れるのが少し寂しくなってしまう。

「ほんにかいらしな。おもてることが全部顔に出てるえ?」
「えっ!」
「また遊びにおいでな?達磨さんと待ってるさかい」
「・・・はい!」
「遊びにやのうて、嫁ぎにでもええよ?」
「お、女将さん!!」

思わずこの間の勝呂くんとのやり取りを思い出してしまい、真っ赤になってしまった私の頭を女将さんは優しく撫でてくれた。

「祓魔師は大変やろけど、気張りおす」
「はい、頑張ります!」

そうして別れを告げてバスに乗り込む。
記憶の中に薄れてしまった母親の像は既に影のように表情がない。その代わり、そこに女将さんの微笑みをはめ込んだ。私も、あんなふうに誰かの心を和らげられる人になりたい。そう思えた。
出発したバスは滞りなく駅に到着する。これから東京行きの新幹線かと思いきや、何故か先導するシュラは駅地下のショップ方面に歩き出す。

「一路正十字への帰途につく・・・と思ったら大間違いだ!!!今から総員水着を買ってもらう!!」
「なんで!?」
「なんでって任務だよ任務。ほんっとあのメフィストの野郎人使いが荒いんだよにゃ〜。ま、水着代は本部の経費で落ちるから好きなの選べよ!」

ぱちこーん、と間抜けな効果音をつけてシュラは店の中に入っていく。男性陣も隣の店に連行されていき、早々に水着を選び始めるようだった。

「水着ってことは海関係の悪魔?」
「ああ、大王烏賊だ」
「クラーケン!?不浄王に比べればたいしたことないかもしれないけど、それでも大物じゃないの?」
「この戦力なら問題ないだろ。ほらさっさと選べって。こっちのセクシーか?それともキュートにしておくか?」

布面積がおまけなんじゃないかというくらいの黒いラメの三角ビキニと、カラフルな小花があしらわれたバンドゥトップ。あからさまににやにやしているシュラに文句を言おうとしたが、そこにしえみちゃんが現れてあの、とシュラに声をかけていた。

「霧隠先生、わ、私水着は着なくていいでしょうか!」
「ダメに決まってんだろ。何ワガママ言ってんだみんな着るんだぞ」
「は、はい・・・」

しょぼくるしえみちゃんはしかたなく面積の多そうな水着を吟味している。
私も同じようなものにしようと手を伸ばしかけた瞬間、シュラによって腕を掴まれた。

「なに?」
「お前の水着はもう決めたから探さなくてもいい」
「は?」
「このシュラ様のおすすめだ!」

既に店員に渡されていた水着はどんなものだったかわからない。
任務に対しては真面目だが、私情を挟ませればはた迷惑この上ないシュラの性格にもう文句も出なかった。

「・・・もう好きにして」
「にゃはは〜!楽しみだなぁ海!」

いや、本当に任務に対しても真面目なのだろうかと頭を抱えたくなるシュラの言動。
しえみちゃんと神木さんに先にバスに戻ると言い残し、目が回るほど眩しい水着の山から抜け出した。

いちばん痛く憶えていたい

20150830 tittle by is