まだ酸素が回らないせいか、意識がもうろうとしたまま会話は進んでいく。 とにかく不浄王を倒すべく達摩さんと勝呂くんと燐の問答が続いていた。 「あかん!!それだけはあかん・・・!!まだ子供や!竜士は絶対に巻き込ませへん!!こんな柵は当代で絶つて、私はこの命をかけて誓うたんや!!それだけはっ・・・!!」 必死に迦楼羅に叫ぶ達摩さんの言葉。 状況についていけていないのは多分私だけだ。 まだ、体の中が空っぽなのだ。とにかく、体力でもなんでもいい、満ちなければお話にならない。 「今まで・・・そうやって一人で背負うてきたんか・・・」 「・・・なに・・・私が好きでやってきたことや」 「そうはさせん・・・!!俺も背負う!!その様で文句は言わせへんぞ・・・!!」 『達摩・・・息子の方が賢明だ』 「・・・ああゆう子やから・・・関わらせなかたんやけどなぁ・・・」 勝呂くんが親指の薄皮を噛み千切る。 そこに浮かんだ血の球に、迦楼羅は血の証を受け取った。 達摩さんから離れた迦楼羅は勝呂くんの体に乗り移り、達摩さんは一瞬泣き出しそうに表情を歪めていた。 そして迦楼羅の印を教えるため位達摩さんと勝呂くんが藪の中に向かっていった。 「・・・」 「はな、大丈夫か・・・?」 まだ少し涙の残る燐の目尻を柔らかく拭う。 恥ずかしそうに赤くなった耳元に、ほんの少し笑えた。 「はな?」 「ん、大丈夫・・・燐こそ、平気・・・?」 「ああ。聞いてくれよ、はな。捕まってた俺を、みんなが助けに来てくれたんだ。しえみは俺のこと怖くないって。勝呂も・・・俺を信じてくれた」 「そっかぁ。よかったね」 「俺、もう一人じゃないって。だから、助けたい。親父やみんなに助けてもらうだけじゃない。俺も、みんなを助けたいんだ」 剣は、抜けねーけど・・・。と力なく笑う燐。 そんなことどうでもいいのに。 そんなことはたいしたことではいのだ。ちっとも重要じゃない。 それよりも大切なのは、今こうして、燐がもう一度仲間を得て立ち上がれたことだ。 「かっこいいよ。燐。そう思う気持ちが大事なんだよ。それが燐の決めたことなら、私は信じるし、応援するよ。だからね、信じて。自分を、みんなを」 「・・・おう」 私の肩を抱いて、燐が強く笑った。 ああ、燐だ。 獅郎さんによく似た、芯の強さ。その手から伝わる熱が、私の中を満たしていく。 「和尚・・・!!」 勝呂くんの声に私たちは藪へと視線を向ける。 前のめりに倒れた達摩さんはひどく荒い息で顔色も悪かった。 「杜山さんそれに神木。ここに残って和尚を頼めるか?」 「う、うん!」 「・・・判った」 「蒼井も、無理すんな。和尚と残れ」 「ん・・・」 勝呂くんの鋭い視線は、有無を言わさなかった。 返答の後勝呂くんは次に三輪くんたちを見る。 「志摩、子猫丸。二人は霧隠先生や明陀の皆にさっきの話を伝えに行ってくれ」 「坊は?」 「俺は結界を張りに行く。この結界は触地印を中心に広がる。なるべく胞子嚢の近くで展開させな」 「!? あんな所に行かはるゆうんですか!?無茶です!!」 「坊、今まで親がメンドいから黙って従っとったけど、今回は話が違うし一言ゆわせてもらうわ。アンタ、ほんまに死ぬで?」 「大丈夫だ」 勝呂くんと志摩くんのにらみ合いを遮ったのは燐だった。 私を抱きしめていた私に断わり、勝呂くんの前に立つ。 「勝呂は俺が守る!」 「ああ!?」 「いいだろ!?剣は抜けねーけど炎が少しは使えるし!何より俺強ーからさ!俺に任せてくれるか?子猫丸」 「えー?俺は?」 ないがしろにされた志摩くんを置いて、ほんの数秒考慮しそれから時間を無駄にすることなく山の麓へと三輪くんが駆け出した。 「ちょ、子猫さん!?だーもうみんなして後で後悔したって知らへんからな!!」 「・・・二人とも。和尚と蒼井の事頼むわ」 「ま、任せて!」 「はな、しっかり休んでろよ」 「うん。頑張ってね、燐。勝呂くんも、負けないで・・・」 「・・・おん。俺達も行くぞ」 「おお!!」 駆けだそうとする勝呂くんと燐に向かって、達摩さんがゆっくりと声を震わせた。 「気ぃつけて・・・ほんま堪忍や・・・竜士、ふがいない親父を・・・許したってや・・・」 「俺は・・・和尚の詠む経が好きやった。せやから、絶対に死ぬな」 走りだし、遠くなっていく勝呂くんの背を見つめ、達摩さんが鼻を鳴らす。 私はたまらず、達摩さんの名を呼んでいた。 誰も死んでほしくない。 燐にも、勝呂くんにも、もちろん達摩さんにも。 だから獅郎さん。どうか、みんなを守って。 君が流れ星になった夜 20140104 tittle by まほら |