炎を出した奥村に殴られた。
霧隠先生に禁固術を唱えられ気を失った奥村は隔離。親父はどこかに行ってしもて、蝮の行方はいまだ知れん。

「俺は・・・なにをやっとるんやっ!!」

寺を継ぐ。サタンを倒す。
そう決めて今までやってきた。
それやのに、身内を守れん。信じられん。こんな事態が起きてしもたのに、子供やゆうて何もさせてもらえん。それは守られてるんやない。足手まといや言われとるも同然や。
右目は奪われ奥村は捕まった。
親父を切り捨てるななんぞぬかしおって。
俺かて、あんなこと言いたかったわけやない。
ただ、和尚の考えとることが・・・わからんのや。アイツは戦わへんのか。この状況で、なにを考えとんのや!?

「・・・なんや外が騒がしうなってきましたね」
「何かあったんでしょうか」

旅館の厨房で奥村に殴られた頬を冷やしながら、なんとか冷静になろうとしとる間、確かに外は何や騒がしなっとる。
人の声に耳をすませば、蝮が捕まったらしい。
俺は居ても立ってもおれんくて、猫と志摩を置いて蝮の所に向かった。

「あ・・・わたしは裏切り者や・・・けど、今から言う話だけは聞いて欲しい・・・先程、私と藤堂三郎太は奪った右目と左目を用いて、不浄王を復活させた」
「不浄王!?」
「何やて・・・不浄王は江戸時代に倒された悪魔では?」
「金剛深山の地下に・・・仮死状態で封印されとったんや・・・今、明陀宗座主・・・勝呂達摩さまと、候補生の子が戦っておられる・・・!」
「候補生て」

思わず後ろを振り返る。
ここに居るのは俺、子猫、志摩、神木、杜山さん。奥村は捕まっとる。
じゃあ宝?あいつは和尚との関係がない。いや、それは蒼井も同じのはず。

「どうか・・・援軍を、不浄王を倒して欲しい!!」
「・・・な、なんて勝手や!」
「自分らで蘇らておいて・・・」
「第一不浄王とは?!どう倒せゆうんや」
「今はそんなこと論争してる場合やない!祓魔は全隊。配置は一番隊と二番隊、深部は一番まで不浄王討伐に出発する!!」

八百造の号令でばらけていた全員が気を引き締める。
装備の準備にばらけていく祓魔師たちを見送り、蝮は緊張の糸が切れたようにうつむいたまま動かなかった。

「蝮!!」
「りゅ、竜士様!」
「!? お前、右目が・・・!」
「ごめ、ん・・・なさい・・・助けて・・・和尚を助けて・・・」

蝮は自分の体を魔法瓶に見立て右目を持ち去った。
そこにはもう眼球はなく、血を流す虚ろにへこんだ瞼が痛々しかった。

「坊、コイツは俺が医務室まで運びます」
「頼むで柔造・・・。お前、和尚と一緒に残った候補生が誰か、わかるか・・・?」

目を見開いた柔造は、悔しげに奥歯を噛みしめ、泣き出しそうに表情を歪めた。
俺は多分。この時点で気付いとったんかもしれん。
柔造は強い男やった。力もそうやし、明陀の男として、志摩の跡取りとしての責任感も強かった。
明陀の人間やない、そいつを和尚と一緒に不浄王の目前に残してきた柔造の後悔は、たぶん一生消えることはないんやと思う。

「蒼井さんです・・・。坊、ほんに、すいません・・・!!」
「ええ、お前が謝ることやない。あいつはいつかって、自分から危ないところに突っ込んでいくアホなんや」

候補生認定試験の時も、霊任務の時も、アマイモンと、奥村の炎の時も。

「あの、アホ・・・!!」

奥村といい、蒼井といい。
なんでお前らは仲間を頼らん。
なんで一人で解決できると思とんや。
この、ボケが!!!


水浸しの春

20131002 tittle by まほら