朝食の最中、志摩くんが休みの候補生でプールに行こうと提案したが、遅れて登場したシュラによってそれは阻止された。
燐はどうやら青い炎を制御するための修行中の身らしく、シュラに引きずられてどこかに連れて行かれてしまった。

「ほな蒼井さんと俺と杜山さんと出雲ちゃんで!」
「しえみちゃんはお手伝いって言ってたし神木さん何処にいるかわかるの?ていうか勝呂くんと三輪くんは?」
「ああ。坊と子猫さんなら総会ですよ」
「総会・・・」

事の重大さを突きつけるような言葉に、胃のあたりがしくりと重みが増した気がする。

「蒼井さんは今日の休みどうしはるん?」
「私もしえみちゃんといっしょに手伝うって言っちゃったから、あとで旅館のお手伝い」
「蒼井さんも杜山さんも真面目やねぇ。ま、根詰めすぎんように」
「ん、じゃあまたあとで」

***

魔障患者の治癒速度は個人差がある。
柔造さんたちのように早く回復する者もいれば、逆に長引く者もいる。
庭で栽培されている薬草も限りがあるので鍵を使って支部に赴き補充をする。
夜の間でも薬草茶が切れることがないように。
それと掃除や洗濯も重要だ。
少しでも腐食菌が残っていればそこからまた魔障が発生する可能性もある。
虎屋は旅館でもあるので今後一般客に被害を出すわけにもいかない。タオルやシーツなどの洗濯は特に徹底されていた。
昼や中休みがあったものの、外はもうすっかり日が暮れていた。

「はなちゃん、今日もありがとうなぁ。そろそろ休んでくれてもええよ」
「女将さん。でもまだ仕事残ってるんじゃ」
「慣れへん土地で気ぃ張りつづけてもバテてしまうえ?しえみちゃんもそろそろ休んでもらうし、その分済んだら今日のお仕事はもうおしまいや」
「はい、わかりました」

ほな、とぱたぱたと歩いていく女将さん。
昨日までは苗字呼びだったけどしえみちゃんと打ち解けて以来私も名前でちゃん付けだ。
女将さんのはつらつとした若さも相まって、なんだか少し年上の女友達が出来たような気分だ。
思わずそう笑いながら最後の薬草茶を沸かせ、出来上がりガスを切る。
それとほぼ同時に、何かが爆発したように地面が大きく揺れた。

「きゃ!?」

運よく熱湯薬草茶をかぶることはなかったが、地震は尾を引くように地味に続いている。食器棚から皿が滑り落ち、割れた陶器が床に散る。

「なに?」
「なにがあったんや!」
「わからん!」
「出張所の方や!」
「東館の天井が落ちたらしい!」
「右目は!!」

敵襲だ。
今日は訓練生はオフで、出張所には明陀、正十字祓魔師が揃って居る。
なんの問題もない。何の問題もないはずだ。
なのに胸騒ぎが止まらない。
私が行って何になる?
駆け足で部屋に戻って装備を調える間に、そんな自問は夜の空に投げ捨て私は夜の京都に飛び出していた。


あたためていた卵の落下

20130628 tittle by 不在証明